何も見えない

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【177日目 7,384km】

 

 

「カパン」の町で一休みをして

大きな峠を越えた勢いそのままに意気揚々と走りだそうとしたその日、

コーカサスの大地は決して優しくありませんでした。

 

 

「ゴリス」という町を目指して朝早く宿を出ると

雲が空を覆い、小雨が降っています。

 

旅をするうえで

多少の暑さや寒さ、雨に雪は覚悟をしているつもりですが

この日の出発からわずか5kmで行く手を阻んだのは“霧”。

ほんの20~30m先が見えないほど濃く深い霧が

一帯を覆い尽くしていました。

 

視界が奪われた中、蛇行しながらアップダウンを繰り返し

さらに車も行きかう山道を走るのはあまりにも危険と判断し、

やむを得ずタクシーでの移動を決断しました。

 

地元のドライバーは慣れているのでしょうが

助手席に座っていると、

どこを走っているのかわからず、ギリギリまで対向車の姿も見えず

命の危険すら感じる極限のドライブです。

 

 

肝を冷やしながら1時間ほどで目的の町「ゴリス」に到着しました。

ほんの少しだけど標高が下がるぶん霧もはれていると思いきや、

やはり町全体に立ち込める深い霧。

 

古くから山間に存在する歴史ある町だそうですが、

どんより沈んだように感じます。

おまけに雨でろくに散歩もできず。

 

 

 

この町にやってきた旅人たちが目指すのは

少し離れた山にある「タテヴ」。

崖の淵に建つ教会が絶景と評判の観光地で

期待に胸が膨みます。

 

天気なんて日々移り変わるもの。

そのうち晴れるだろうとゴリスの町で

1日過ごし2日過ごし、太陽の姿を首をながくして待っていました。

 

ところが、

国土のほとんどが標高1,000m以上という山岳国家アルメニア。

待てども待てども、一瞬たりとも霧がはれることはありません。

 

 

 

同じ宿に滞在していたドイツ人バックパッカーの方と

何もしないまま過ごしていたところ、

「ここならあまり霧も出てないはず!」という宿主のアドバイスを受け

タクシーで近くの観光地に行くことにしました。

 

そこは、

吊り橋が掛かった谷の向こう側に

中世の人々が暮らした洞窟住居群があるという

地元有数の観光スポット。

 

久々に霧の外に出られるかもとワクワクしながら

タクシーに乗り込みます。

 

相変わらず視界の奪われた危険な山道を進み、

10kmほど走ると到着!

 

 

あれ?

 

あれれ?

でもまあ吊り橋の向こうはきっと…

 

 

 

……、

……………。

そのまま宿に戻って温かい料理を食べました。

 

 

旅の出発当初、訪れる予定はなかったのですが

出会う旅人たちが口を揃えて「美しい」と称賛していた国・アルメニア。

 

僕にはまだその魅力を理解できそうにないです。