山を越え、国境の町へ
【53日目 2,446km】
乾いた土壌に高いビルが連なっていた新疆ウイグルの土地も
西に進むにつれて街は減っていき、そこには何もない荒野が広がっています。
カザフスタンへ向け真っすぐ伸びる道路に並行して
東西を貫くようにそびえるのは、
7,000m超のポベーダ山を含む広大な群山“天山山脈”。
ここ数日間、どこまでいっても続く山々を左手に見ながら走っています。
延々とつづく壮大な自然の景色はまさに大陸ならでは。
そして、中国~カザフスタンの国境を通過するためには
この天山山脈を超える必要があります。
真夜中に公安に連れられたどり着いたホテルで1日休んだのち、
中国人チェンくん、イギリス人ステファンさんと一緒に
2日間かけての山越えに挑みます。
泊まっていた町“精河”の標高は約350mほど。
そこから出発して目指す峠の頂上はなんと標高約2,000m。
西へ130km進むと同時に、1,700mも登っていかなければなりません。
そして、この日の予想気温は40℃近くまで上がる見込み。
中国最後にして最大の難関が立ちはだかります。
1日目に頂上の盆地に到着して、2日目は下るだけというプラン。
9時ごろに出発し、午前中は順調な走り出し。
意外に勾配は緩やかでスムーズに進んでいきました。
しかし、70kmほど走りお昼を済ませた2時頃から一気に余裕はなくなります。
目の前にはどこまでも続く果ての見えない上り坂。
村や集落はとっくに見えなくなり、周りにはとてつもなく広い荒野と山々。
照り付ける太陽から隠れる陰なんてあるわけがなく、
体力は少しづつ奪われていきます。
気温が上がっても乾燥しているのでほとんど汗はかかず、
肌の表面には塩田のように乾いた塩分が浮かびあがってきました。
砂漠みたいに建物が何もない空間にいると距離感がなくなるのか
漕いでも漕いでも進んだ気がせず精神力も奪われていきます。
そんななか突如ぽつんと現れた建物。
どうやら食堂のようで、ここで休憩しました。
こんなに水をありがたいと思ったことはないというほど美味しかった。
オアシスってこういうことです。
でも周囲10km以上何もなかったけど、お店の人どんな生活を送ってるんだろう。
徐々に日は暮れて少しずつ涼しくなってきました。
道路わきでお菓子をつまんだり、袋ラーメンをそのままバリバリ食べたり、
疲れ果ててしまいそうな中、何とか体力をつなぎ留めます。
この坂を超えれば頂上かと期待するたびに
その先には上り坂があって何度も心をくじかれましたが、
日没直後の22:30頃、燃え尽きそうな状態で頂上の盆地に到着しました。
この盆地には“賽里木(サリム)湖”という湖がありホテルの建つ観光地にもなっています。
湖のニックネームは「大西洋が流した最後の一滴の涙」。…素敵。
でもこの時の写真はありません。
夕暮れに染まる湖だったり、放牧中のラクダの赤ちゃんだったり
ぜひ写真に撮ってここに載せるべき景色は沢山あったんですが
カメラを取り出す体力すらなかったんです。
本当に疲れたら、そんなもんなんです!
ホテルで1泊したのち、翌日は山の反対側に下っていくだけ。
お昼頃にのんびり出発し、湖畔のサイクリングを満喫しました。
山脈の北側から南へ超えると、
これまでの乾いた土地が嘘のように青々とした景色に変わります。
連なる山々を縫うように敷設された道路はまさに天空の道。
絶景の中を颯爽を下っていけば、前日の苦労が一気に報われました。
山を下って平坦な道を50kmほど進むと国境の町・霍尔果斯(コルガス)。
故郷の町へかえるチェンくん、先にカザフスタンへと入国するステファンさん
二人ともお別れ。
新疆ウイグル自治区に入ってからいっきに過酷な自転車旅になりましたが、
見計らったかのように新しい出会いが待っていてくれました。
しんどい時も誰かが支えてくれれば思ったよりも頑張れるもの。
この調子で進んでいきます!