2024.08.19
【129日目 7,440km】
アメリカ最後の街・サンディエゴにて
しっかり疲れを癒すと、いよいよ国境越え。
楽しみでもあるけど、やっぱり不安もあります。
街の南にある国境までは
わずか40kmあまり。
「自転車コースがあるから
オレも一緒に走って案内するよ」
と、ホストのショーンさんと共に
青空の下を進みました。
途中で、フランスからやって来た
ファミリーサイクリストと遭遇。
実は今夜ショーンさん宅に泊まることに
なっている次のゲストさんでした。
家族5人でメキシコを下っていくそう。
メキシコでまた会えたりして。
ショーンさんとも別れ、
サンディエゴ中心部から
さらに南へ下り続けると
大きなショッピングモールが現れました。
この辺りが国境らしいけど、
よく分からないので人に聞いてみる。
教えてもらった方へ行くと
拍子抜けするほど
質素な国境審査の入り口が。
移民流入、麻薬取引など
多くの問題を抱えてるそうだけど
国境は本当にシンプル。
そのまま中に進むと、
X線の荷物検査があっただけで
5分ほどでメキシコ側に抜けてしまいました。
気づけばパスポートのチェックすらしてもらっていません。
僕が入国した記録がどこにも残っていない状態だけども
本当にこれでいいのかしら。
疑問に思いつつも、もう審査所に戻ることもできないので
そのまま街へ向かうことにします。
ということでやってまいりました
33ヵ国目となる「メキシコ合衆国」。
タコスやトルティーヤに代表される伝統料理が
とても魅力的な国。
アメリカ、カナダとうって変わってスペイン語圏となり
コミュニケーションが難しくなってしまうのも、
逆に旅の楽しさの一つになると信じています。
ちょっとしたトラブルもありそうではありますが
南北アメリカにおいてもっとも期待していた国の一つ。
国境を越えた瞬間の
雑多な雰囲気につい圧倒され
カメラを取り出すこともなく
15分ほどで予約していたホテルへ。
下水の鼻をつく臭いは
やっぱりアメリカと違う。
ショーンさん宅を出発したのが14時頃と遅く
ホテルにチェックインしたころには日が暮れかけていました。
やってきた国境の街ティファナは治安が良くないとのことだったので、
へたにうろちょろせず今日は近くの中華レストランで済ませることに。
すると、カード社会のアメリカから来たからこともあり
現金を下ろすのを忘れており財布がスッカラカン。
会計時カードが使えず、暗くなった街でATMを探すはめに。
近くのスーパーですぐ見つかったからいいものの
旅人の感覚がすっかり抜け落ちてます。
翌朝。
ほんとうはティファナの街にしばらく滞在して
メキシコ文化に慣れておきたかったのですが、
アメリカに近くホテルの料金も思いのほか
高かったので(¥5,000)
すぐに移動することに。
今いるティファナから
2か月半かけてカンクンを目指す予定ですが、
まずは西部の“バハ・カリフォルニア”という
半島部分を走っていきます。
海に囲まれた砂漠の景色を走っていくのが楽しみ。
ティファナは坂の町で
道は絶えず上に下にと
うねっています。
アメリカほどしっかり
車線が引かれてないけど
そんなに運転も荒くない印象。
街を見下ろすと
家がひしめき合うように
建っていました。
言ってしまえば“ぐちゃぐちゃ”な
感じがアフリカやアジアの国のよう。
綺麗な国からくるとビビってしまう。
ホテルから30分ほど海の方へ
向かって走ると、
国境の壁にたどり着きました。
公園として整備されており
銃を持った兵士が見守っている
わけではありません。
ただ、ここまで大きな壁というのも
見たことは無いので
それだけ不法入国を
企む人も多いということだろうか。
隣り合う国の格差が大きいと
こうなってしまうんだろうな。
写真を撮って「さぁ出発」と思ったときに
声をかけてくれたのは“ダンさん”。
北米から中米にかけて自転車旅をしたことがあるらしく
僕に興味をもってくれたそう。
「今日走るのに水がいるよね」と
手元の水をくれました。
容器をのぞくとなにか
葉っぱが浮いている。
「ハマイカ」と呼ばれるこれ、
正体はハイビスカスです。
健康にとてもいいらしく
日本人にとってのお茶みたいなもの。
赤みがかってほんのり香ります。
こういう「何これ!?」ってのが
カナダやアメリカには無かったな…。
文句じゃないんですよ。
さて、いよいよ本格的に走り始めます。
目指すは南へ100kmの街「エンセナダ」。
アメリカで聞いたアドバイスに従って
高速道路の路肩を走ることに。
しれっと料金所の端を抜けてゆく。
聞いていた通り
かなり路肩に幅があり
安心して走ることが出来ます。
山はないけど、海沿いには崖もあるので
意外と起伏は激しい。
時に立ち漕ぎをしながら必死に漕ぐ。
途中横切ったビーチには
人も凄いけど、車もびっしり。
こないだサンディエゴで足だけ
海に浸かったけど、冷たくて
入れたもんじゃないけどな。
一応8月だしシーズンなようです。
問題なく100kmを走り切り
夕方には目標の街・エンセナダへ。
看板の文字がスペイン語なのは
違うけど、走ってる分には
まだアメリカと変わった気がしない。
南に行くと“濃く”なってくんだろうな。
街に到着して向かったのは
Warmshowerのホスト“トーマスさん宅”。
欧米が中心ではあるものの世界中に
登録者のいるサイトなので、
今後もチャンスがあれば利用していきます。
これまでに300人近くもの
旅人を受け入れてきたという
トーマスさん。
これから進む道のアドバイスを頂き
わずかながらもメキシコの
不安がやわらぎました。
到着翌日はエンセナダの街をぶらついて
メキシコの雰囲気に慣れておくことに。
街の風景からして、やはりこれまでの国とは大きく違う。
太平洋に面する港町である
エンセナダ。
アメリカから大きな客船がきて
たくさんの観光客がやってくる
場所でもあります。
海辺をゆったり歩いてみる。
魚市場にはあらゆる種類の
海産物がズラリと並びます。
魚だけでなく
エビ、タコ、牡蠣など
本当になんでもありました。
これまで海岸を走ってないから新鮮。
こういう安っぽいお土産を
これでもかと店先に並べるのも
アメリカ・カナダには無かったな。
客引きがひどいなんて
評判も聞いてたけど全然
そんなことなかったです。
中心部を離れても
波が押し寄せるビーチはどこまでも続いています。
平日だというのにすごい人。
もちろんビーチタウンということで
サーフィンも盛ん。
釣りとかもできるんだろうけど、
僕は“海の趣味”を持ってないんです。
せっかく湘南に住んでるんだし
日本帰ったら、なんかやろっと。
そして、メキシコといえば“タコス”。
トウモロコシの粉でできた生地を焼いて
各種肉に玉ねぎ、パクチーをのせ
唐辛子のソースとライムをかけてかぶりつく。
もうこれは、滞在中飽きることないだろうな。
1個が大体¥200~300で
男性なら3個は食べたいところ。
そんなエンセナダで
一番おいしかったのは味噌ラーメン。
「入国初日も中華だったし
メキシコ料理食べろよ」
という風に
思われるかもしれません。
でもね。
数カ月にわたって旅してると
まずは日本はじめアジアの料理が食べたいんです。
それか、自転車で旅してるときは
野菜とか高たんぱくな肉とか
栄養のあるものを体が求めます。
つまり、地元の料理を堪能しようなんてのは
ある程度お腹が満たされてからの話ってこと。
(誰に対して言い訳をしてるんでしょうか。)
街の自転車屋さんでゲットしたのは“バックミラー”。
ティファナから出発して道路脇を走っているときに
警察に停められて、
「付けた方がいいよ」とアドバイスをもらっていました。
カナダの時点で探してたんですが
良いのが見つからず、
ここへきてやっと入手。
全方向にしっかり目を配らせて
安全第一でメキシコの道を進んでまいります。
2024.08.14
【125日目 7,261km】
酷暑の中たどり着いたカリフォルニア最初の街「ブライス」。
半分、熱中症になっていたのだと思うけど
モーテルに逃げ込んだ翌日はほとんど体も動かず
寝たきりで1日を過ごしました。
天気予報を見ても46℃の高温は
どうやら数日続くよう。
“ヒートドーム”と呼ばれ
熱気がドーム状に籠ってしまうという
アメリカで発生しがちな現象だそうです。
通りには誰も歩いていない。
「どうしようか?」とまともに
思考できるようになったのは
モーテル滞在2日目。
この先には本格的な砂漠もあり
自転車で走ることは
現実的ではなさそう。
ブライス到着3日目。
走れるところまで走って、
砂漠地域をヒッチハイクで進むことにしました。
ここまで自走でやって来ただけにかなり悔しいけど
こればかりは仕方ないと、腹をくくることに。
ブライスのモーテルから
30kmほど南に下りたところで
砂漠の入り口に到着。
午前中だけどすでに気温は
40℃を越え汗はダラダラ。
商店で買ったドリンクを流し込む。
覚悟を決め商店の前で
ヒッチハイクを始めるのですが、
思いのほか車の数が少ない。
「1時間足らずで捕まるっしょ」
と思ってたけど、この調子では
すんなりいきそうにありません。
すると見かねた商店のおばちゃんが声を掛けてくれました。
「あんたさっきまで自転車漕いでて、
また太陽の下に立ってるとホント死んでしまうわよ。
私が友達に掛け合ってみるから、店の中で涼んでなさい」
ということで、お言葉に甘えて休ませてもらい
さらには車の手配までお世話になることに。
ちょうど夕方に砂漠を越えた街に向かう
お友達がいるとのことで
しばらく待った後、
無事に載せてもらうことが出来ました。
何から何まで取り計らってもらって
もうお礼のしようもない。
広がる砂漠は距離にして110km。
曲がりくねって視界が悪いうえに
路肩が無くすごく危険な道でした。
暑くなくてもここは漕ぎたくなかった。
ヒッチハイクはなるべく避けたかったけど、
これは正しい判断だったな。
快く載せてくださった
“ジェイさん&サニーさん”ご夫妻。
車で1時間以上もの距離を
乗っけてもらい本当に助かりました。
自転車漕げない時にだって
その時ならではの出会いがあるもの。
砂漠を越えたとはいえ
まだ“ヒートドーム”の範囲内で、
夜は38℃なのでモーテルに泊まることに。
ただここから1日走れば
山を越えて一気に気温が下がるはず。
早く海を拝みたい…。
ブライス出発2日目。
気温は35℃を越えているだろうか、朝から暑いけど
雲が厚いのが幸い。
少しでも早くヒートドームから外へ。
しばらくするとハイウェイに合流し
路肩を走り始めます。
一見怖いけど、幅がかなり広く
多くのドライバーは
余裕をもって避けてくれるので
意外に落ち着いて走ることが出来る。
少し疲れを感じ始めた昼前、
一台の車が止まり
ヒンヤリ冷たい水と
粉末の経口補水液をもらいました。
喉がカラッカラに乾いていたので
最高に嬉しい。
そして午後からは山越え、
20kmにおよぶ上り坂です。
ただここを越えてしまえば
ヒートドームの外側に出て
灼熱地帯に別れを告げられる。
じわりじわりとペダルを踏み込む。
坂を上り始めて2時間ほどしたころ。
後ろからパトカーがやってきました。
「あー、そこの自転車止まりなさい」
“へっ?何か悪いことしたかな”と思いつつ
耳を傾けると、
「さっき道端でサイクリストがぶっ倒れてるって通報はあったんだよね。
君、まだ坂続くけど大丈夫なの?」
仰向けで大の字に寝そべって休憩していたのを、
どなたかが心配してくださったようでした。
わざわざ警察まで動かしてしまって申し訳ございません。
警察が去ってから数分後、
さらに別のドライバーが停まってくれます。
「もうすぐで頂上だから頑張れよ!」
アメリカ旅最終局面にして、
この日は本当に
沢山の思いやりを受け取っています。
そして夕方18時頃、
ついに峠の頂上へ。
1日で1,000m上りました。
そしてついにヒートドームの外側へ。
30℃前後でしょうか、
疲れてるけど滝のような汗は流れない。
少し進んで「ジャコンバ」という
小さな集落へ。
公園を見つけてテントを張ります。
日が暮れるころには空気もひんやり、
暑さにうなされることなく
気持ち良く爆睡させてもらいます。
ブライス出発3日目。
山岳地帯を進んで目指すは海辺の街「サンディエゴ」。
今日がアメリカ走行最後の日です。
道の左手に目を向けると、
メキシコとの国境に立ちはだかる
無骨で物々しい壁が
どこまでも続いています。
色んな国を走ったけど、こんなに
大きく長い国境壁は見たことない。
このまますぐに南下して
メキシコ入りすることもできるのですが、
せっかくここまで来て
アメリカ西海岸の“バイブス”を
一度は 感じておきたかったので
サンディエゴを目指しています。
昨日、汗かいて上った坂を
今日は一気に下っていく。
ただあまりに急すぎて
ブレーキを必死に握って下るので
そんなに早くは進めません。
安全第一。
坂を下り切ったお昼過ぎ、
道のわきに小さな商店を発見。
おそらく1番気温が高い
時間帯だろうけど、
それでも30℃ほどでしょうか。
山を越えたとたん気候が変わりました。
さらに1時間ほど走ると
いよいよ交通量も増え、
都市の様子を感じ始めます。
しかも自転車道が整っており
予想よりもかなり走りやすい。
都市は好きじゃないけど、良い気分。
そして遂に到着しましたアメリカ南西部、
国境の街「サンディエゴ」。
雲一つない青空に向かってまっすぐ伸びるヤシの木。
あぁ、西海岸。
ルートの都合もあり、今回の旅で
アメリカの大都市を訪れるのは初めて。
中心街の高層ビル群も新鮮。
といってもサンディエゴの人口は
100万人程度なので、
“ぼちぼち”の大きさですが。
サンディエゴではWarmshowerのホスト
“ショーンさん&キャリーさん”ご夫婦宅にお世話になることに。
今年Warmshoerのサイトに登録されたばかりで
僕が初めてのゲストなんだとか。
光栄でございます。
暑さによる疲れと
アメリカを走り切った達成感を感じつつ、
到着翌日はお二人と
のんびり休日を過ごします。
自転車に乗らない日こそ楽しいのが
自転車旅の魅力。
午後は海へドライブ。
スタート地点のアラスカ以来となる
太平洋とのご対面。
この海の向こうに
“スウィートホーム 湘南”が
あるのか…。
ランチはお二人のお気に入りだという
メキシカンレストランへ。
これから散々食べることになるけど、
メキシコ料理はバリエーションが
かなり豊かなので
飽きることなさそう。
とても穏やかで気持ち良い日を過ごすことが出来ました。
“ショーンさん&キャリーさん”、ありがとう!
そして嬉しかったのは、
ショーンさんに電話をお借りして
事故により救急車で運ばれてしまったロブさんとお話が出来たこと。
入院こそしなかったものの足の骨を折っており
今でもまだ歩けないそうですが、
看護師である奥さんの献身的な看病のもと
穏やかな療養生活を送られているようでした。
出国前に声が聞けてよかった。
ということで
新たな国に向かう不安もありましたが、
疲れも癒えて準備は万全。
ここからいよいよメキシコに向かいます。
2024.08.10
【119日目 6,990km】
ユークアラさんとセドナで過ごすこと1週間。
今回の旅でここまでゆっくりすることもなかなか無く、
重い腰を上げて走り始めます。
目指すは西海岸「サンディエゴ」、アメリカ最後の街へ。
砂漠の広がるアリゾナ州。
高気温が不安でルート選びに悩みましたが、
ユークアラさんやお友達のアドバイスに従い
セドナを真っすぐ西に向かうことに。
どのみち暑くはなるけど
少しはマシだそう。
走り始めて2時間ほどでパンク。
セドナの自転車屋さんで
診てもらったはずなのになぜだ…。
しっかりチェックしても
トゲも刺さってないようだし。
もやもやしたまま取りあえず修理。
確かにルートが良いのか、
最も暑い昼過ぎでも走れるほどの気温。
35℃くらいでしょうか、
決して殺人的な暑さではなく
水分補給さえすれば
フラフラにはなりません。
夕方に“プレスコット”到着。
なかなか野宿場所が見つけられず、
日が沈むことになってやっと
工事現場のすみっこにテントを張る。
風情も何もなく
ただ夜を過ごすだけのキャンプ。
セドナ出発2日目。
どうやら前輪のタイヤが調子悪いようで、
ゆっくり空気が抜けている。
プレスコットの町を出る前に
自転車さんに寄ってみる。
やはりトゲも刺さっていないようで
はっきりした原因は分からず。
すっごくモヤモヤします。
パンクが気になって気持ち良く走れない。
パンク補修剤を注入してもらい
走り続けることに。
プレスコットからは少し峠が続きます。
ただ主要な完全道路が別にあるので
交通量はかなり少なめ。
日差しに照らされせっせと上る。
峠を越えるとゆるやかな下り坂。
ここからは大きな山が無く
西海岸まで下っていくだけだそう。
アメリカはモンタナから入り
標高1,000から2,000mを
ずっと上下してきました。
夕方に「ヤーネル」という小さな集落へ。
公園を見つけテントを張ります。
ここしばらくロブさんやユークアラさんと
嬉しい出会いが続いたので、少し寂しい。
一人が好きと言っておきながら
出会いが無いと旅も退屈です。
セドナ出発3日目。
朝から下り坂を気持ちよく滑り降りていきます。
高台から見下ろす荒野。
ここを降りると標高500mほどになり
いよいよ平地に下りていくことに。
ただ標高が下がると気温が
上がってしまうのが不安。
しっかりと走っていけるだろうか。
そして下り坂の途中で
「プスッ!」と大きな音が。
路肩の大きな釘が刺さったよう。
ただでさえ前輪の謎のパンクに
悩んでいるのに、後輪もぐさっと
やられてしまいました。
朝いちから日陰もない場所でパンク修理。
セドナを出て3日間毎日タイヤを外して
作業をしています。
そして、奥底でフツフツと
怒りが湧いているのを感じる。
「あぁ、イライラする…」
自分の心の状態が良くないことを感じ、
パンク現場から30kmばかり離れた「ウィッケンバーグ」にて
モーテルに泊まることに。
苛立っている時って必ず何かやらかしてしまいます。
大切なものを失くすとか、不注意でケガや事故をするとか。
長旅で大切なことは
“平常心”だと思っています。
いつも通りのことを
いつも通り淡々と確実にこなす。
それが出来そうにない時は前に進まず
心をニュートラルに戻す。
ついでに謎のパンクが続く前輪もチェック。
小さな町の店で適当に買った接着剤が
あまり良いものではなかったのか、
どうやら修理箇所が
しっかり塞がれてなかったよう。
ここでしっかり直しておく。
セドナ出発4日目。
クーラーの効いた部屋でぐっすり眠って
心と体を整えたら仕切り直し。
ウィッケンバーグの街をまっすぐ西へ向かうと
いよいよ本格的な荒野が広がっていました。
道路わきの看板に書かれた
“ロサンゼルス”の文字を見ると
いよいよ海が近づくのを感じる。
ロスには行かないし、
まだ距離もかなりあるんだけど
走ってきたんだなぁと感慨に浸る。
たまに現れる町の商店で
水分補給の休憩。
メキシコの人が多いのか
聞こえてくる言葉に
スペイン語がかなり増えてきました。
いよいよ国境が近づいている。
90kmを走って「ウェンデン」という
小さな集落へ。
はずれに広い公園を見つけ
テントを張ることに。
子供たちのバスケを眺めながら
のんびり野営の準備です。
標高が下がっているからか、この日から
夜の気温が上がった気がします。
日が暮れてもほとんど涼しくならない。
なるべくすぐ眠りたいのに
じわっと汗をかき、すっと眠りに
落ちることが出来ませんでした。
セドナ出発5日目。
結局うまく眠れず朝から体が重い。
ただゆっくり休める場所も無いので
とにかく先へと進まなければ。
朝7時には走り出したのに
すでにもう暑い…。
昨日までと全く様子が違います。
今日は100km先の街に
着きたいけれど、
無事にたどり着けるだろうか。
キャンプ場の横に商店を見つけ
逃げ込むように日陰へ。
冷たいスポーツドリンクを飲み干すと
そのまま体に染み込むように感じる。
間違いなく体が
悲鳴を上げつつある状態です。
それからまともに休めるような場所もなく、
午前中の内に80kmを走り切って
13時に「クオーツサイト」という街へ。
暑さのあまり食欲もないけれど、冷房を求めて
“M”の看板が印象的なハンバーガー屋さんへ入ります。
「はぁ、暑い暑い…」とゆっくり食べてると、
隣のご家族のお父さんが声をかけてきました。
「君、頑張ってるようだけど大丈夫?
一応伝えておくけど外の気温44℃だよ」
「へ?」と一瞬、耳を疑いました。
移動中はネットなどつながらないので
気温をチェックする習慣すらないのですが、
どうやらとんでもない温度に到達していたようです。
「さすがにこの暑さはヤバい…」
熱中症気味でもあり野宿は考えられず。
モーテルのある街は
さらに30km進まなければなりません。
下り坂で風を浴びても
ドライヤーの熱風が当たるみたいで
まったく涼しくはありません。
1時間走った所で
ガソリンスタンド付きの商店へ。
火照った体をドリンクで冷ます。
それでも滝のような汗が止まりません。
ここから街までさらに1時間。
意を決して再びペダルを漕ぐ。
街まで10kmを切った地点で
州境であるコロラド川に差し掛かり、
アリゾナ州からカリフォルニア州へ。
ただ感慨にふける余裕もなく
早く先に進みたい…。
暑い、暑い…。
そして夕方17時過ぎに「ブライス」
という町に到着。
昼に予約しておいたモーテルへ駆け込む。
頭も体もフラフラで
何も考えることが出来ない。
もう疲れた…。
モーテルの方に聞くと
到着した夕方時点の気温がなんと46℃!
人生最高気温となる猛烈な暑さでした。
どうやら前日からあたりを熱波が襲っているようで
この地域でも異常な暑さなんだとか。
ベッドに就いて寝ようとする頃にも39℃…。
セドナを出発してから
連発するパンクに悩まされ、
未体験の酷暑に苦しめられ、
なんとも険しいカリフォルニアまでの道のりでした。
2024.08.5
【114日目 6,571km】
体調を崩してフラッグスタッフにて1泊。
モニュメントバレーの観光やロブさんの事故もありつつ
7日間連続で走っていますが、
ここからわずか50kmほど南下した町で
ゆっくり休める予定です。
フラッグスタッフ中心部を離れると
一気に下り坂でした。
向かう先が観光地でもあるため
交通量もそれなり。
しっかり右によって安全に、安全に。
事故直後とあって、少しビビる。
下り坂を1時間進んだ先に
あっという間に目的地である
「セドナ」に到着。
あぁ、懐かしいこの町の雰囲気。
僕が旅に夢中になる
きっかけとなった場所の一つでもあります。
町に着いて向かったのはこちらの寺院。
ヨガや瞑想などのレッスンを
行う施設になっています。
ここに来たというのも、
ぜひ会っておきたかった人がいるから。
待つこと1時間ほど。
それがこちらの「ジェームス・ユークアラ」さん。
この人に会えるということでアラスカ出発以来、
セドナにやってくるのを楽しみにしていました。
彼とはどういう関係かというと、ちょうど10年前の夏。
バックパックを背負ってアメリカを旅していたのですが、
このセドナで野宿をしようと寝袋を抱えてキョロキョロしていると、
たまたま声をかけてくれたのがユークアラさん。
当時、観光客で賑わうセドナで野宿場は見つけられず
結局彼の家に4日間ほどお世話になったんです。
当然、今回の旅でも会わないわけにはいかず
セドナにやってくるのを楽しみにしていたというわけ。
ぱっと見にも、奇抜で派手な見た目のユークアラさん。
実はアメリカ原住民のハバスパイ族という部族でいらっしゃって、
その中でもメディシンマン(シャーマン)として
精神的、儀礼的指導を行う立場にある人なんです。
ハバスパイの伝統的儀式を継承すると同時に
そのライフスタイルや人生哲学が
他の文化圏の人々にとっても生き方のヒントになるということで、
日本やヨーロッパまで講演会やイベントに引っ張りだこ。
NHKの取材も受けられていましたよ。
現在、寺院の一画に住んでおり
僕もこちらで寝泊まりさせてもらうことに。
10年前は違う家だったので
こちらははじめて。
静かでとても居心地の良い
空間でございます。
ユークアラさんは伝統的で
厳粛な暮らしをしているかというと、
そんなことはなくまぁ普通です。
なんなら家いる時はずっとスマホ。
「リールとかずっと見ちゃうよね」
って感じです。
寺院の一画で
暮らしているということで、
ヨガ教室にも参加させてもらいます。
自転車旅中はしっかり
ストレッチをやってるけど
やっぱりヨガとなるとしんどい。
ただユークアラさん、
とてもお忙しい人でもあり
セドナを拠点に色々な場所へ
用事で出かけられるのですが、
滞在中は僕も付き人として
あちこちご一緒させてもらいました。
まず、再会の翌日にはセドナの北200kmにある
「グランドキャニオン」へ。
アメリカはもちろん、もはや地球を代表するといっても過言ではない
雄大な自然遺産です。
谷底を流れるコロラド川が
ゆっくりゆっくりと大地を削り
つくりだした巨大な渓谷。
その期間は20億年にもおよび
地球の歴史の3分の1にもなります。
まさに天文学数字。
“人生観が変わる”なんて大げさな表現で
形容すると胡散臭いですが、
このグランドキャニオンに関しては
決して言い過ぎではないかもしれない。
目の前に立つと必ず何かを感じる、
それぐらい力強い景色です。
と、ここにきたのも観光ではなく。
国立公園のビジターセンターにて
観光客に向けて放映する短編映画の
撮影が目的です。
ユークアラさんは谷底にある村の出身。
語り部として出演されるそう。
朝日を迎えると同時に祈りを捧げる様子。
ハバスパイの言葉で祝詞を唱え
セージを燃やす姿は、
仙人のようですらあります。
背後に広がる渓谷の風景が
さらに荘厳さを増す。
ネイティブアメリカンの信仰は
「おお、我らが神よ」といったような妄信的な宗教感ではなく、
太陽や山、木、動植物など身近な自然に感謝をしようといったもの。
(僕の解釈です…)
ユークアラさんがしばしば口にする教えも、
「過去や未来にとらわれず、今を生きよう」
「良いことも悪いことも意味があって起こる」
といったように、
あくまで日常を前向きに過ごしていくための
コツに留まっているように感じます。
シンプルだからこそ胸にストン、と落ちてしまう。
そんな“暮らしの教え”的な哲学が
日本の神道ととても似ていると思うのですが、
実際ユークアラさんのもとを訪れる日本の方も多いようです。
撮影が終わるとレストランにて朝食。
この格好をしているだけに
ユークアラさんはしょっちゅう
写真撮影をお願いされます。
普通の格好で横に座るのが
逆に恥ずかしい。
さらにグランドキャニオンから戻った翌日には
セドナから南へ、車で3時間のフェニックスへ。
こちらのホテルが今日の現場。
新しいプロジェクトを
立ち上げるためのミーティングです。
“ユークアラ”ブランドの健康グッズ
を売り出すのだとか。
「会議の様子をかっこよく撮ってくれ」
と付き人の仕事を受ける。
会議は2時間にも及び、
ウェブサイトのデザインについて
熱のこもった議論がなされます。
僕はその向こうのモニターの
パリオリンピック開会式を
じーっと見ていました。
さらにホテルから場所を移し
今度はスタジオへ。
ウェブサイト用のBGMと
写真撮影をするそうです。
ほんとマネージャーになったみたい。
仕事内容全く理解してないマネージャー。
録音するのはハバスパイの儀式で
歌われる歌なのですが、
これがすごく神聖な雰囲気で
そのまま作品にもできそうなほど。
低い声から高い声まで
楽器のように喉を鳴らしていました。
そのまま写真撮影へ。
写真を撮られること自体
大好きなユークアラさんですが、
魅せ方を知ってるという感じ。
カメラを前にして
流れるように色々なポーズを見せます。
そのままホテルに戻って
宿泊することに。
こんなふかふかベッドに寝られるなんて
いつもの自転車旅とギャップがありすぎて
不思議な感覚に陥ってしまう。
どうして自分はここにいるんだろうか…。
付き人期間中は
美味しいものを山ほど
ごちそうになってしまいました。
ここまでほとんどレストラン
入ってないから、もう
何を食べてもあごが落ちそう。
再びセドナに戻ると、
町の見どころである「カセドラル・ロック」に登ったりと
やっとのんびりした時間を過ごしました。
10年前に旅をして、
日本とはかけ離れた赤土の景色に
魅了されたセドナの町。
さらに忘れられない出会いもあって
旅をすることの素晴らしさを
教えてもらった場所でもあります。
“少数民族のメディシンマン”という
背景を抜きにしても、
そのおおらかで前向きな人柄で
他人を引き付けるユークアラさん。
こういう風になりたい、と思える
とても豊かな人格をお持ちです。
結局、予定をオーバーして一週間も滞在してしまいました。
セドナにいないことも多いようなので、
会うことが出来て本当に良かった。
ユークアラさん、年明けにも来日して
スピリチュアルトークをされる予定です。
乞うご期待。
2024.08.1
【106日目 6,518km】
絶景・モニュメントバレーで朝日を迎え、
いざ走り出そうとするも前輪がフニャフニャ。
“やれやれ”とため息をつきながら、予備のチューブと交換です。
実は前夜、夕日を待っている時に
左足親指を“ヒアリ”に刺されるというトラブルもありました。
裸足にサンダルだったのですが、
突然、成人男性に爪の先っちょで
おもっきり強くつねられたくらいの痛みと
同時に燃えるような熱さも感じる未体験の刺激。
朝になってもタンスにひどくぶつけた時のような痺れが続いてました。
赤土の地域をご旅行の際はお気をつけください。
チューブ交換もスムーズに完了し、
気を取り直して再出発。
ここモニュメントバレーを境に
ユタ州からアリゾナ州に突入です。
乾いた荒野の大地、砂漠の旅は
まだまだ続く。
と、ほどなくしてまたパンク。
しっかり確認したはずのタイヤに
おそらくトゲが残ってたようです。
予備チューブがもうないので、
穴を塞ぐべく修理キットを
取り出したところでビックリ。
写真のパッチを接着剤で貼り付ける
必要があるのですが、
日毎続く暑さのせいで、
接着剤がカバンの中で爆発してました。
さすがに予想外。
これでは修理はできない…。
本当にどうしようもなかったので
お世話になった人にお渡しする
ステッカーで応急処置を。
置かれた環境で
いかに問題を解決できるか。
旅の経験が問われます。
ところが、やっぱりそんな甘くない。
すぐに空気は抜けふにゃふにゃに。
ついにお手上げ、
ヒッチハイクをすることに。
ただキャンピングカーが多く
なかなか乗せてもらえません。
1時間ほど路肩で手をあげ続け、
ついにトラックが停まってくれました。
このあたりは「ナバホ・ネイション」と呼ばれ
ネイティブアメリカンの人々の居留地となっております。
アジア人にも似た顔立ちで、
どこか親近感を感じずにはいられないドライバーさんに
20kmほど離れた「カリェンテ」の町まで乗せてもらいました。
接着剤も購入し、
自動車整備の工場にて腰を据えて
修理作業をさせてもらうことに。
パンク修理、今回の旅では3回目です。
距離の割りには少ない方かな。
メキシコ以降、増えるだろうけど。
タイヤをよく見ると、パインツリーの
棘が2つも刺さってました。
この地域に生える木なので
しばらく続く可能性もありそう。
アフリカではアカシアの棘に
何回もやられたっけ。
やっとまともにペダルを漕げると安心し、幹線道路を南へ。
観光地モニュメントバレーに近い割りには
交通量は落ち着いています。
夕方、商店があると聞いており
横でテント張らせてもらうつもりが
廃業してました。
虚しい…。
せっかく冷たいジュースが
飲めると思ってたのに。
すぐ近くにお家があり、
奥さんに訪ねると
「うちの敷地でテント張っていいよ」
とのこと。
南に下るにつれ野宿が
しやすくなったように感じます。
さらにテントまでご飯を
持ってきてくれました。
“インディアンタコ”と呼ばれる、
ナバホの伝統料理だそう。
小麦粉ベースの揚げパンで
鶏肉が挟んであって食べ応えバッチリ。
モニュメントバレー出発2日目。
テントを片付け出発してから、わずか10分後に
キコキコと後ろから追いかけてくる男性が。
こちらのロブさんは、子ども達の住むミシガン州から
アリゾナ州フェニックスの自宅まで
自転車で帰っている最中だとか。
地図で見てもらえると分かりますが
73歳のおじいちゃんが漕ぐにしてはすごい距離です。
ただ、僕は他人と行動するのが苦手でして。
こういう時は、しばらく共に走っておいて
適当なタイミングでしれっと距離を空け
お別れしたいのが本音なところ。
一人で旅をしているだけに
一人でいることが好きなんです。
一方、ロブさんは他人と走るのが大好き。
「なぁリョウスケ、あの日陰で休もう」
「次の休憩でサンドイッチを食べるぞ。
お前は何を食べるんだ?」
あぁ…、もうすっごい
話しかけてくるんですけど。
まぁアラスカからここまで
誰かと一緒に走ることもしてないし、
“たまにはこういうのも良いよね”
と自分を納得させながら、
暑い道のりを
一緒にゆっくりと漕ぎ進めました。
15時には目標のトゥーバシティに到着。
「今日はキャンプ場予約してあるから
一緒に泊まろう。あとマックも食べよう、
ご馳走するから」とロブさん。
悪いなぁ、と思いつつも
お言葉に甘えてしまう。
「リョウスケのペースは俺にぴったりだ。
今日は一緒に走ってくれてありがとう」
いつも一人で走るのが当たり前だからこそ
そんな飾りっ気のない言葉がすごく嬉しい。
“誰かと一緒に走るのも悪くない”
と心から感じつつ眠りに落ちました。
モニュメントバレー出発3日目。
この日も気温の上がりきらない朝のうちに
たくさん走るため、7時前には出発します。
目的の「フラッグスタッフ」という
大きな街までは、
1日で1,000mも標高を
あげなければなりません。
こんなときに、ひとりじゃない
という事実はとても心強い。
僕が先を走り
ロブさんが後ろを追って走ります。
今日は景色も地味でとくに見所がなく
ただただ距離を縮めていくだけの
日になりそうな予感。
なおさら二人で良かった。
そして、その瞬間はあまりにも突然でした。
「カマロン」という小さな町を過ぎたあたり。
路肩に自転車を寄せ水をごくごくと飲み込んでから、
後ろのロブさんの姿を確認した、その時。
ハザードランプを点けて停まった2台の車。
そして、道路脇に倒れ込んで動かないのはロブさん。
「えっ?」と戸惑いながらも状況を把握するため近づくと、
ロブさんの周りには散乱した旅の荷物、そして痛々しい血痕。
頭から血を流し真っ青な顔をして、目をつむったままのロブさん。
「ウソでしょ…? ロブさん…。ロブさー-ーん!」
あっという間に、人が集まり
たまたま通りかかったナースの女性を中心に
応急処置が始まりました。
弱りながらも呼び掛けには応えており、
なんとかロブさんの命には別状がなさそう。
どうやら、白線上を走っていたロブさんの頭部を
追い越した車のミラーが直撃したとのこと。
まずはパトカーが来て、30分経ったところで救急車が到着。
なにもできない無力感を感じながら傍観していると、
ナースの女性が僕に声をかけてきました。
「リョウスケってあなた? 彼から話があるみたいよ」
近づくと、弱々しく口を開くロブさん。
「リョウスケ…。
今日の目的地にキャンプ場を予約してある。
もうオンラインで払っちゃったから、絶対泊まるんだ…。」
「どうでもいいよ!無理して喋んなくていいから!」
思わず半泣きで突っ込んでしまいました。
救急車が到着してからは処置も順調に進み、
集まった人たちも徐々に去っていきました。
僕も警察から簡単な聴取を受けると、
「もう行っていいよ」とのことで現場を去ることに。
正直あまりに衝撃的な出来事に
それから走る気も起こらなかったのですが、
ストレッチャ-で運ばれるロブさんが最後に言い残した
「Hit The Road!(進め!)」
という言葉が耳に残っており、
重い足を踏み込みながらなんとか走り続けることに。
標高を数百mも上げていく
長い上り坂だったのですが、
半分放心状態でぼぉっとしながら走るものだから
写真すらまともに撮っていません。
事故の瞬間を見てしまっていたら、
おそらくこの日漕ぐことはできなかったと思います。
そして、19時前には目的の街「フラッグスタッフ」に到着。
受付に行くと確かにロブさんの予約はあり
遺言に従って代わりに泊まらせてもらうことに。
(死んでません。)
テントを張って一段落すると
今日起こったことを反芻する。
もし自分に同じことが起こったら…。
ロブさんに最悪の事が起こっていたら…。
改めて旅の危険性を確認しつつ、
ここまで安全に進めていることに感謝。
事故翌日。
フラッグスタッフには大きな病院が一つしかないようで
おそらくここだろうと目星をつけのぞいてみることに。
すると、たしかにロブさんはここに搬送されたそうですが
ほんの1時間前に奥さんの運転でご自宅へと帰ったそう。
一目会えたらよかったけど、入院も必要無いようで本当に良かった。
ほっとしたのもつかの間。
実は前日の午後、ひどい夕立に降られおり体はクッタクタ。
悪寒がしはじめました。
もう今日は走れそうにないやと、
やむを得ずモーテルに泊まることに(¥16,000!)。
思えば、まともに風邪をひくのはアラスカ出発以降はじめて。
倒れ込むように、ベッドに体を沈めました。
2024.07.27
【102日目 6,253km】
赤土の大地が織りなす絶景・アーチーズを堪能すると
モアブを後にして、次なる絶景を目指して進みます。
日中の酷暑を考慮して
「一人サマータイム」を導入しました。
朝5時には起きて7時までには走行開始。
涼しい午前中の内に
少しでも距離を稼ぐという作戦です。
夏には夏の走り方がある。
モアブを離れると
どこまでも砂の平地が
広がっていました。
観光案内の掲示板が
貴重な日陰をつくっており
お昼の休憩をとる。
暑さで食欲もわかないので
昼も夜もトルティーヤばっかり。
アボカド、玉ねぎ、ベーコンを刻んで
ソースをかけてクルクル。
巻き方がどんどん上手くなっていく。
メキシコに行く頃には飽きてないだろうか。
15時頃には目的の
「モンティセロ」の町に到着。
途中でにわか雨も降って
意外と涼しく、まだ走れそうだけど
無理をしない。
暑い時期は刻んで刻んで進みます。
商店にはドリンクバーのマシンがあって
自分で注いでレジに持っていくのですが
「ジュースだけ?なら払わなくていいよ」
とタダにしてもらうのは3回目。
サービス精神というより少額清算が
面倒くさいからではなかろうか、良い国…。
スーパーで割引のものを買って
夕食にする。
自炊を楽しもうという気持ちが
ひとかけらも無くなるユタの夏。
冷やしうどんをつるっと流し込んで
ちゃちゃっと済ませたいくらいです。
町はずれに湖を発見。
ほとりには大きめの東屋もあり
ここで寝させてもらうことに。
ユタ州に入って野宿場所の確保が
若干容易になったように感じます。
人気もないしゆっくり眠りに落ちます。
モアブ出発2日目。
湖の向こうから登る朝日を眺めつつパッキング。
空気がひんやりして気持ちいい5時起き生活。
悪くないです。
ここ数日続いていた熱波が去り
だいぶ涼しくなっているのを感じます。
適度に休憩を挟めば
熱中症の心配もなさそう。
一時はどうなるかと思った暑さも
なんとか乗り越えられそうな予感。
70kmほど走った所で
「ブラフ」という集落に到着。
このあたりからゴツゴツとした岩が
周囲に沢山見られるようになりました。
本当に不思議な形をしたものが
あちこちにあります。
町にはクーラーの効いた
ヴィジターセンターもありました。
ランチ休憩も兼ね暑い昼過ぎの時間帯を
ここでやり過ごさせてもらうことに。
「えっアラスカから!?」と
10回くらい聞かれる。
雲が厚くなったタイミングを見計らい
再び走り出す。
ブラフを離れるといよいよ
カラッカラに乾いた荒野が
広がり始めました。
そして緩やかな上り坂。
日が傾くと、あっという間に
表面の色が変わるのが
赤土の岩山の面白いところ。
影が差し込み立体感の出た
山肌を眺めつつ、下り坂を滑っていく。
思い描いたアメリカならではの景色。
“メキシカンハット”という集落に到着。
生鮮のほとんど置いてない小さな商店で
買い物をして、お菓子のような夕食に。
ドーナツばっかり食べてたら
すぐにアメリカ人のようにコロッコロの
体型になるんだろうな…。
集落の横を流れる川辺に
テントを張る。
テントなしで地べたでも
寝られる気温だけど
水辺だけに蚊がすごいんです。
日が暮れると数が増える。
モアブ出発3日目。
いよいよ目的としていた絶景まではわずか40km。
朝から雲一つない快晴に気分も高まります。
走り始めて10kmあまりの所。
岩山に向かってまっすぐ進む印象的な道は
映画のワンシーンでも知られる
「フォレストガンプ・ポイント」。
アメリカで走っておきたかった
道の一つです。
ただの道路なのですが
名所ということもあって、
写真を撮りたい人が順番待ち。
僕も旅情ある一枚を、と思ったけど
どうやら三脚立ててのんびりやってる
余裕もなさそうなのでやめとくことに。
ここで声を掛けてくれたご夫婦が。
アラスカから走ってきたことに
とても感心してくださり、
「ランチでも食べて」と
御心付($20)を頂いてしまいました。
大切に使わせて頂きます。
さらに15kmほど進んだところで
ついに目的の場所「モニュメントバレー」に着きました。
アメリカでも特に楽しみにしていた場所です。
公園内は自転車禁止の為
観光ツアーに申し込み(2万!)。
同じトラックに乗り合わせたのは
なんと日本からお越しのご夫婦。
よく考えればアメリカ入国以来
日本の方は初めてです。
お二人の旅行を邪魔して申し訳なさを感じつつも
久しぶりに交わす日本語での会話も嬉しく、
しばらくご一緒させてもらいました。
“モニュメント(記念碑)”のように
雨と風に浸食された岩山は
「ビュート」と呼ばれています。
こないだ見に行ったアーチーズとは
また違う形状につくり出された
自然の芸術。
西部劇のような風景ですが
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
「イージー・ライダー」
「インディ・ジョーンズ」など
数多くの名作映画の撮影でも
使われてきています。
これまで世界各地の自然遺産を
訪ねてきましたが、
アメリカ南西部に広がる
赤土の台地が織りなす沢山の絶景は
特に深く心に刺さります。
波長が合うというか。
ネイティブアメリカンたちの信仰の対象
ともなっているこの地域の自然遺産ですが、
神とか宇宙といった大きな存在と
結び付けてしまうのもうなづけるほど
目の前に立った時の力強さは
すさまじいものがあります。
お昼に頂いたお金でディナーに
ハンバーガーを(¥3,200)。
振り返ると、幾度かマクドナルドで
ちょっとしたもの食べたくらいで
アメリカではレストランは
初めてかもしれない…。
朝日を迎えるモニュメントバレーは
さらに神々しい。
これを見るためには公園内のキャンプ場に
泊まらなくてはいけないのですが、
テントを張るだけでなんと¥9,000。
お昼の観光ツアーも含めると¥30,000。
今アメリカを旅行するとはこういうことでございます。
まぁ、良いものは見れたんだけど。
はぁ…。
2024.07.23
【98日目 6,001km】
ユタ州最初の街・ヴァーナルでひと休み。
こちらの写真は、お世話になっていたジャレドさんと
当初泊まらせてもらう予定だったカルヴィンさん。
出発の朝に郊外まで一緒に走り、お見送りをしてくれました。
南に下って次に目指すのは
「モアブ」という町。
ユタ州を代表する観光地の
拠点となる場所です。
ヴァーナルからは4日はかかる行程。
どんな景色が広がってるでしょう。
ジャレドさんから忠告も受けており
「ここからは一気に暑くなる。
ルート変更も考えておいた方がいい」
とのこと。
本格的な荒野が広がるようで
覚悟を決めて進んでいく。
70kmばかり走ったこの日。
“ダイナソー”という小さな町に着きました。
町役場には名の通り恐竜のモニュメント。
様々な種類の恐竜の化石が
この地域で発見されているそうです。
子供たちが喜びそうな町。
容赦のない暑さに対処するために
ここからは1日の走行距離を
短くしていきます。
日々の疲労をちょっとでも軽くして
ダウンしないように、ゆっくりでも
確実に前に進んでいきたい。
ヴァーナル出発2日目。
ここから「ダグラス・パス」という
2,500mの峠を目指していきます。
緩やかだけども
地味に高度をあげていく。
ユタ州に入ってから2,000m越えの
峠がかなり続いているので
上り坂には慣れているものの
暑さのせいでやっぱり辛い。
あたりに集落はないものの
こうした東屋が所々にあるので
日陰を求めて
頻繁に休憩をはさみます。
背の高い木がないので
走行中は影がまったくありません。
スタートのダイナソーから
700mほど高度を上げ
峠の手前の道端にて野宿。
標高が2,000m近いこともあり
日が暮れると一気に気温が下がります。
涼しいので夜はよく寝られる。
暑いと料理をする気も失せてしまう。
これまでストーブで
クスクスを調理してたけど、
適当に食材をトルティーヤで巻いて
お腹を満たす。
栄養だけはとっておかねば。
ヴァーナル出発3日目。
前日に登り切れなかった峠を上り始める。
頂上付近は傾斜が急なこともあり
ほとんどペダルを漕がず押していきます。
1時間ほど登ったところで
ダグラス・パスの頂上に到達しました。
2,500mの峠から見上げる
青空はとても爽快。
まだ朝9時ということもあり
涼しい風を受けてしばらく景色を眺める。
眼下にはこれから
下っていく道が蛇のように
うねりながら続いています。
反対に登っていくことを考えると
ゾッとするけど、実際同じだけ
登ってきたんだよな、と感慨に耽る。
限りなく広がる荒野を
突っ切る真っすぐな道を
スピードに乗って滑走していく。
昼前にもなると気温も上がり始め
じわっと汗をかき始めます。
余裕にあるうちにちょっとでも進みたい。
“ロマ”という小さな集落で休むと
大きな幹線道路に沿って走り始めます。
午後からはさらに気温が上がるので
休みをとりつつ、
疲れ切ってしまわないよう
慎重に。
この日を境に気温が確実に
一段階ほど上がったのを体感します。
乾燥しているとはいえ
日陰のない道を走り続ければ
焦がされた体からは徐々に
体力が無くなっていく…。
高架下に貴重な影を発見。
自転車を置いてひと休み。
太陽にさらされ熱くなってしまった
ペットボトルの水を喉に流し込む。
美味しくはないけど
とにかく水分を摂取しておかねば。
さらに1時間ほど漕ぐと休憩所を発見。
日陰に入ると極端に涼しくなる点は
湿気の多い日本との違いだろうか。
だらぁっと横になって休む。
すると暑さでダウンしてると思ったのか
ドライバーさんたちがちらほら集まりました。
聞けば周辺に熱波がやってきており
この時間40℃にも達しているのだとか。
さらに今後何日も酷暑が続くそう。
そりゃ、どうにも暑いわけだ。
沢山の方から
水やスポーツドリンクなどを頂く。
フラフラになりながらも
“シスコ”という集落に到着。
集落というより廃屋がいくつか
集まっただけで本当になにもない。
荒野のど真ん中に虚しさだけを
取り残した空間が広がっています。
そんな中、一つだけ商店がありました。
事前に調べた情報によると
敷地内にテントを張らせてくれる
とのことだったけれども、
到着が遅すぎて閉まっていました。
もう誰もいない…。
誰もいないので日陰を求めて
裏で寝させてもらうことに。
勝手に敷地に入るのも良くないけれど、
暑さにやられて考える余裕もなく。
おかげで無事に疲れた体を
休めることが出来ました。
ヴァーナル出発4日目。
目的の町・モアブまでは80km。
早く着いて休みたい。
幹線道路を離れ128号線という
コロラド川に沿った道に入ると、
大きな赤い岩が削れた
豪快な景色が広がっていました。
横切る車も少なく
ゆっくり眺めながら進んでいく。
これぞ思い描いていたアメリカ、
というような景色がどこまでも続く。
眺めるだけで喉乾くし
日差しが今日も暑いけれど、
この場所はうだるほどの暑さも含めての
風景だろうな。
モアブの町が近づいたあたりで
自転車道が現れます。
ただこの時すでに
40℃近いであろう午後2時。
自転車に乗って走っている人など
一人もいません。
そして、ついに到着しました「モアブ」。
小さいながらも観光客に溢れ
活気のある町なようです。
ヴァーナルから走ること4日。
クタクタになった体を
ここでしっかり癒しておきたい。
まずは商店で冷たいドリンクを飲み干し、
この町でもWarmshowerの
ホストの方にお世話になります。
今回はどんな方だろう、
と地図を見ながら郊外にある
お宅に向かったのですが…
たどり着いたお家の門がこれ。
“え?ここなの?
呪い人形みたいなの気になりすぎるんですけど。
てか、もう嫌なんですけど…。”
「あんたがリョウスケね。
まずどうしたいの、シャワー?洗濯?
忙しい時に来たわね。タイミング悪いわ」
60歳前後であろう女性の“テリアンさん”
からまともな挨拶もなく
まくしたてられました。
「あたし日焼け止めクリーム嫌いだから
すぐシャワーで洗い流して。
二階で寝てもらうけど足音立てないで。
荷物運ぶとき、砂持ち込まないで。
Wi-Fiあるけど
変なものダウンロードしないで。」
これまでのホストさんのパターンだと、
「全部君のものだと思って好きに使ってくれよ!」
というお家が多かったのですが、
こちらは禁止事項が多く、あたりも強め。
数泊とはいえ大丈夫だろうか…。
ただテリアンさん、とても器用な方でもあり
家の水道や電気配線などの施工を
ご自身でされたそう。
とても芸術家肌なようで
古着屋さんのような匂いのするお家も
雰囲気があって良い感じ。
話してみると、冗談も言うしよく笑うし
口は悪いけど、根は悪い人ではなさそう。
ジブリ映画に出てくる魔女みたいなものだと思って
数日お世話になります。(超失礼)
到着翌日、「パーティーあるから
あんたも行くのよ」と
お友達の家に連れてきてもらいました。
誕生日会とのことで
予想以上の人に溢れています。
年齢もホントばらばら。
アメリカ大陸を旅してるということで
興味を持ってくれる人がいたり、
日本に縁のある人もいたりで、
パーティ嫌いな僕も
すごく楽しい時間を
過ごすことが出来ました。
モアブ滞在中に観光にやってきたのは
町から10kmほど北にある
「アーチーズ国立公園」。
ユタ州きっての観光地であり
モアブはここに向かう人たちの
拠点となる場所というわけ。
砂漠の観光地とあってこの日も暑い。
朝7時には公園に入り、
散策を始めました。
多くの観光客同様
水をたっぷり持って
トレッキングルートを進みます。
最初にやってきたのが公園内1番の見どころともいえる
「デリケートアーチ」。
“アーチーズ”とは、名の通り
雨や風によってアーチ状に浸食された芸術的な岩が
2,000も点在する場所なんです。
ちなみにこのデリケートアーチは
州のナンバープレートにも描かれるほどで、
アーチーズ国立公園のみならずユタ州の象徴ともいえる風景です。
数億年前、あたりに
流れ込んだ海水によって
岩が塩分を多く含むらしく、
特有の地質がこの土地ならではの
光景を生み出しているのだとか。
中には歩いてくぐれるものも。
2つのアーチが重なった「ダブルアーチ」。
圧倒されるのは
魅力的な造形のみでなく、その大きさ。
こればかりは写真で伝えきれず
ふもとに立って見上げるしかありません。
とにかくデカい。
名前の通り、絶妙なバランスで
そびえるのは“バランスロック”。
中には浸食がすすみ
数年後には崩壊が予想される
岩もあるそう。
今しか見られない地球の芸術。
“悪魔の庭”、“エデンの園”など
仰々しい名を冠したものも多い
アーチーズ国立公園。
確かにどこか超常的なものを感じさせる
強烈な景色が広がる場所です。
暑さも忘れて見とれてしまう。
アーチーズの観光含め、
暑さからくる疲れをとるためにも
モアブの町にはたっぷり3日滞在。
どれだけ静かに歩いても
「足音うるさいわよ」と言ってくるテリアンさんに
すっかり愛しさすら感じ始めてしまいました。
2024.07.19
【91日目 5,642km】
ワイオミング州ジャクソンにて
チャック&カレンさんに提供して頂いた宿で休むこと3日。
疲れもとれた出発の朝。
「なあリョウスケ、わしの充電器のコードとったじゃろ。返しなさい」
とチャックさん。
僕「いや、荷物確認したけどないよ。」
C「いやいや、3日も滞在してるし絶対わしのヤツ使ったはず…。」
僕「でも持ってないよ。てかチャックのタイプBじゃん。Bなんか使いませーん」
C「え?タイプBとかCとかあんの?」
僕「あるよ!もっかい身の回り見てよ」
そんなやり取りをして1時間後。
「ごめんごめん、車の中にあったわ」とニコニコ顔のチャックさん。
こんなやりとりは世界中でおこなわれてるんだろうなとしみじみ感じつつ、
二人に別れを告げて出発しました。
ジャクソンから目指すのは
「ヴァーナル」という街。
5日ほどかかるだろうか。
イエローストーンとは打って変わり
途中に見どころも特に無いようで
走るばかりの日々が続きそうです。
ランチは昨日の残りのチャーシュー。
ゆで卵もたんぱく源になるけど
気温がどんどん上がってきており
持ち運びには向かない。
これからは夏仕様の
キャンプ飯も考えねば。
遠くに見えるロッキー山脈。
カナダ北端からのお付き合いだけど
そろそろ見納め。
自転車で走るとよく分かるけど
途切れず延々と山嶺が続く
大陸ならではのスケールに圧倒されます。
この日悩まされたのが野営地探し。
住宅が密集した街にテントは張れず
平原広がる郊外はフェンスが敷かれ
寝る場所が見つからない。
“どこでも寝れるでしょ”と下調べを
していないのがあだとなる。
21時まで走り続け
やっとキャンプ場を発見。
1泊¥4,000ほどと高額。
貧乏旅において
まず節約したいのが宿泊費。
これが続くとやってられないです。
ジャクソン出発2日目。
起伏の少ない平坦な道を今日も漕ぎ進めます。
モンタナから続く大平原が
乾いた荒野へと変化しつつあり
耕作地も減ってきています。
見てるだけで喉が渇くような風景。
こんな景色が海のように
どこまでも続いています。
夕方、“ファーソン”という集落に到着。
後々知ったのですが右の建物が
地域で大評判の
アイスクリーム屋さんとのこと。
¥600と高額なのでやめたけど
食べとけばよかった…。
この日も野営地探しに苦労。
公園を見つけて
まずは食事をしていると
警察がじろじろ見てくるので
退散することに。
ワイオミングの野宿は難しい。
教会の敷地の隅で
テントの許可を頂きました。
日が長いことも野宿が難しい原因です。
もっと早く暗くなれば
どこかに隠れてできるのに、
と犯罪者になったような気分。
ジャクソン出発3日目。
お世話になった教会の方が、
「キリスト教に興味はあるかい?」と分厚い聖書を渡そうとしてくれます。
「いや、ちょっと荷物になるし、うーん」
「こっちのちっちゃいヴァージョンもあるよ」
「いや、僕は信心深い方じゃないし…、うん大丈夫」と言葉を濁し退散しました。
お世話になったのになんだか申し訳ない気分でございます。
イエローストーン以降、文字通り
雲一つない快晴が続いております。
天気を気にしなくていいのは
旅において本当に楽。
ただこれからは気温が気になるけど…。
すでに日中かなり暑い。
写真では見えにくいですが、
道路脇には数百kmに渡って
フェンスが延々と敷かれています。
これだけ広大なのに土地にこだわるのは
不法侵入・占有が多いからだろうか。
ヨーロッパより野宿難しいかも。
昼過ぎには「ロック・スプリング」に到着。
このあたりでは大きな街で
当然野宿もできそうにないのですが、
この日はここでゆっくり過ごそうという
狙いがありました。
というのも…
今日は7月4日の独立記念日。
至る場所で国旗が掲げられ、
夜には街中で花火が上がるとのこと。
ただ思ったほどお祭りムードでもなく
パレードもやってないよう。
普通の祝日といった印象です。
せっかくだから現地の人と過ごそうと思い
キャンプ場に向かうと、
なんとテントを張るだけで1泊¥9,000。
聞き間違えかと思い
「え?パードゥン?」と疑ってしまう。
これが通常価格なようです。
「いいもん、独立記念日なんか関係ないもん」
と行くあてもなく公園で時間を潰します。
街の規模にもよるそうですが
地方の小さなところでは
さほど大きなイベントはないのだとか。
ちょっと拍子抜け。
綺麗な公園で野宿もできそうになく
街のはずれの自動車修理工の方の
敷地にてなんとかテントを張ることに。
毎日人頼みでキャンプ地を探すのも
精神的に疲れるし、
なにより迷惑な気もしてくる。
とっぷり日も暮れた22時。
さぁ花火があがるぞ、とカメラを構えるも
「…、…。……。…、パーン。…パン」
いや、玉数少な!そして低っ!
写真すら撮れず、期待外れの
7月4日が終わりました。
ジャクソン出発4日目。
ロックスプリングを出ると、延々と続く長い上り坂が待っていました。
「フレーミング渓谷」というこの地域。
家屋は全くなく、見晴らしの良い
谷間の景色を眺めつつ
緩やかな坂を進みます。
追い越していく車も少なく
ストレスなく走れる。
日を避ける影など何一つない一本道。
真っ正面から走ってきたドライバーさんに
水をもらいました。
しかも、クーラーボックスで
キンキンに冷えたもの。
火照った体を気持ち良くクールダウン。
見下ろす渓谷にははじめて
赤土の大地を拝めました。
イメージ通りのアメリカの荒野です。
遠目から見ると
層になっているのがよく分かる。
北米ならではの自然の景観です。
そして夕方17時頃。
アメリカ中部のユタ州に突入。
モンタナ、ワイオミングに続く
3つ目の州です。
恐竜の化石がたくさん
発掘されることでも有名だそう。
「ダッチ・ジョン」という小さな町の
外れにて、人目を忍ぶ場所を発見。
日の入りは21時半ごろでしょうか、
夏至は過ぎたけれど
まだまだ日は長いようです。
暗くなる前に眠る。
ジャクソン出発5日目。
この日も朝から上り坂で標高2,500mの峠を目指します。
前日の上り坂がキツかったこともあり
ほとんど漕ぐことが出来ない…。
そんなに急な坂じゃないのに
時速4kmで押して歩く。
暑さもこたえて
もうクタクタ。
昼過ぎにようやく峠の頂上へ。
途中でクラシックカーの
イベントをやっていたようで
おしゃれな車がいっぱい走ったのに
そんなの写真撮る余裕がないほど
疲れ切ってました。
峠から一気に坂を下り
標高1,500mの地点にやってきます。
ユタ州に入って一気に気温が上がったのか
空気がもわっと暑苦しい…。
下り坂でも爽やかな
涼しい風は吹きません。
そしてついに「ヴァーナル」到着。
するとちょっとしたトラブルが。
マクドナルドでWi-Fiをつなぐと
事前連絡していたホストさんからメール。
「ごめん!家族の急用で街を出なきゃ。
今夜泊められないわ!」とのこと。
あてにしていたWarmshowerの宿泊先が無くなり焦っていたところに、
再度連絡が入ります。
「友達が泊めてくれるからそっち向かってくれ」
ということでやってきたのが
「ジャレドさん」のお宅。
急なお願いにも関わらず
庭先のRV車に水と電気を通して
泊まれるようにしてくださいました。
素晴らしいホスピタリティ。
5日間走行が続いたので
到着翌日はお休み。
涼しいお家で
のんびり休ませてもらいました。
アメリカ入ってから
街をじっくり見てない気がする…。
貴重な週末にお邪魔させてくださった
ジャレドさんご一家。
仲良く明るい皆さんでした。
自転車乗りのコミュニティサイト“Warmshower”。
ほどほどに使っていこうと思っていましたが、
時にキャンプ場ですら¥5,000を超えるアメリカでは
大いに頼ってしまっています。
2024.07.15
【86日目 5,163km】
イエローストーン公園内で2つ目の夜が明け、
キャンプ場を後にして南へと向かいます。
公園自体が2,000mを越える高所に
あるとあって、傾斜が急な箇所もしばしば。
そのぶん自然豊かな景観を
楽しむこともできます。
しばらく乾いた大平原が続いたので
水辺に心が潤う。
お昼過ぎには国立公園のゲートを
通過して、イエローストーンの
サイクリングも終了。
ここしばらくランチは
トルティーヤばっかり。
アボカドが美味しいんですよね。
気温はお昼で20℃前後でしょうか。
夜も涼しくて寝やすいです。
南に下りるにつれ猛暑が予想されるので
おそらく今が一番過ごしやすい。
というかこないだまですごく寒かったし
快適な期間短いんですけど…。
“ジャクソンレイク”という湖のほとりに
キャンプ場を発見。
ここもサイクリスト用の場所が
用意されており
¥1,500ほどで泊まれます。
シャワーも浴びれてほんと快適。
夏休みに突入して溢れかえった
周りの観光客の皆さんにつられて
アイスを食べてしまう。
3段で¥900と
日本なら定食食べられる値段。
でも食べたかったんだもの…。
翌日。
引き続き南下しますがイエローストーンに隣り合った
「グランドティトン国立公園」をなかを進むことになります。
ロッキー山脈の景色が見どころ。
湖の向こうに見える尖った山々。
このエリアをサイクリングしたり
トレッキングする人が多く、
イエローストーンとセットで
観光するのが定番だそう。
家族連れが沢山います。
整ったサイクリングロードを
気持ち良く走ることが出来ます。
観光地ではe-バイクをよく見かけます。
スイスイ楽に走れて楽しそう。
あれで旅が出来たらどんなにいいか。
充電が大変だけども…。
グランドティトンを走り抜け
20kmほど南下すると
イエローストーン観光拠点の町
“ジャクソン”に到着しました。
冬場はスキー客でも賑わうらしく
山肌がスッキリ刈られています。
ジャクソンの町から3kmほど南にやってきたのがこちらのお家。
いつもおなじみのサイクリストコミュニティサイト
“Warm shower”で連絡を取り合っていた
ホストファミリーさんのお宅なのですが、
この時はちょっとおかしな状況。
すでに退職された悠々自適のご夫婦いわく
「週末ちょっとキャンプ行ってくるから
家泊まってていいよ、鍵開けとくね」
とのこと。
「ようこそリョウスケ、この家だよ!」
と紙が貼られた玄関を開けると、
素敵な居住空間が広がっていました。
“ウソでしょ、ここ一人で使っていいの?”
予想を超える最高の宿に出会えたようです。
もう、幸せ…。
滞在に先立ち食材も調達済み。
何が食べたいかって
新鮮な野菜と肉でございます。
自分で調理できるのも
休日の楽しみ。
(自転車漕がない日を“休日”と呼びます。)
YouTube見ながらのんびり料理するのが
もう楽しくて楽しくて。
こんな時に日本での日常が恋しくなります。
欲しいものが手に入って
体が欲しがるものを摂取する、
これだけのことがすごく嬉しい。
テント泊ばかりが続いており
屋根の下、ふかふかベッドで
寝られるのは
カルガリー以来2週間ぶり。
布団って久し振りだと
姿勢が落ち着かないですよね。
朝食を済ませコーヒーを飲みながら
日が差し込むテーブルで
パソコンに向かい作業をする。
全てを手に入れた成功者の気分です。
フリーターのくせに…。
ちょっとしたことで喜びを感じる旅人。
羽を伸ばしきって2泊、ご夫婦帰宅の日。
お礼にチャーシューを作る。
お世話になった家では振る舞うのは
決まってチャーシュー。
こっちの食材で作りやすいし
皆さんに喜んでもらいやすいんです。
滞在3日目にしてついに
“チャックさん&カレンさん”ご夫婦にお会いできました。
「快適に滞在できたかしら?」とカレンさん。
いや、もう骨の髄が溶けてしまいそうなぐらい
快適でございました。
やっとお会いできた二人にお礼を伝え
楽しく食卓を囲みます。
見知らぬ旅人の為に
家まであけてくれる人が
この世にはいる、という事実。
自分は人のためにどこまでできるだろう。
チャーシューなんかでは決して返せない恩を
また一つ受けてしまいました。
2024.07.11
【82日目 5,087km】
“自転車はここで止まれ”の看板の通り足を止め、
“リーさん&ジーニーさん”宅にてお世話になった朝。
ジーニーさんの作ってくれたサンドイッチを受け取ると
「イエローストーン」を目指してさらに南へ。
天気の良さは相変わらず。
暑さも若干和らいで
かなり過ごしやすい気候です。
南の方向に山々が見えてきた。
カナダのバンフ以来となる
ロッキー山脈地域に突入していきます。
昼には“リヴィングストン”
という町に到着。
古い雰囲気を醸すダウンタウン。
ここから西に40kmの“ボーズマン”
という町にジョニー・デップが
住んでるそうですよ。
街を出るとまっすぐ南に下りる
一本道を進みます。
リーさんに教えてもらった
交通量の少ない道路がすごく走りやすい。
地元の人の情報に頼ることが
旅においてとても大事です。
ジーニーさんが作ってくれた
サンドウィッチでランチ。
ゆっくり座って休憩することが
気持ち良くなったのは
ホントここ最近です。
こないだまでもう寒くて寒くて…。
110kmを走った夕方に
国立公園の玄関口「ガードナー」
という町に到着。
観光客で溢れかえる
とても賑やかな場所です。
欧米だけでなくアジア系の人もたくさん。
立ち寄ったスーパーで
牛肉が安く(¥400)、
夕食はステーキに。
前の旅含めても初めてじゃなろうか。
焼くだけで意外と調理も簡単だし。
走り切った日に食べる肉、最高です。
町のはずれに図書館を発見。
誰もいないようなので裏で
テントを張らせてもらうことに。
観光地なのでどうかなと思ったけれど、
ぐっすり眠って
無事に朝を迎えることが出来ました。
翌朝。ガードナーの町の南側に料金所があります。
ここからいよいよ「イエローストーン国立公園」へ。
入場料$35と聞いてたけど、自転車は$20とのこと。
嬉しい。
標高2,400mにあるイエローストーン。
ゲートの向こうはかなりの急坂でした。
「傾斜キツイし、路肩もないから
トラックにでも乗せてもらったら…?」
と言われたけど、これまで通り
自力で行きたい。
まず1時間ほど坂をのぼると
“マンモス”というエリアへ。
大自然が広がっていると思いきや
高級なホテルが立ち並んでいました。
イエローストーンは全米屈指の観光地。
人も車も凄い数です。
最初にやってきたのは「マンモス・ホットスプリングス」。
そもそも“イエローストーン国立公園”とは
大きな火山地帯です。
地中深くに世界最大とも言われるマグマだまりがあり、
その地表ではガスや熱水が噴き出す間欠泉など
特有の火山活動が見られるのが国立公園の魅力。
熱水が湧きだす泉を見てみると
複雑な結晶のようなものが見えます。
これらはバクテリアが
層を成しているらしく、
場所によっていろいろな
模様を見せてくれます。
ここマンモス・ホットスプリングスは
棚田のように傾斜した
石灰岩が特徴で、
白い岩肌と
茶色いバクテリアが
独特な景色をつくっています。
ひと通り見終えるとまた坂を上ります。
南北には200kmにも及ぶほど広い国立公園。
その中に間欠泉などの見どころが点在しており
ひとつ見たらまた次へ、と移動を繰り返して観光していきます。
昼頃に高低差800mにもなる
坂を全て上り切りました。
その先は平らな台地になっており
分かりやすいほどに平坦。
高所だけに涼しく、ジャケットを
羽織って漕いでいきます。
何やら車が渋滞しており
合間を縫うように追い越して進むと、
森の奥になんと「グリズリー」が!
“黒いパンダ”ことブラックベアとは違い
グリズリーは本物の猛獣です。
おしりをこちらに向け去っていきました。
15時頃には「ナリス・ガイザー・ベイスン」へ。
開けた土地にいくつもの間欠泉(ガイザー)があり、
そこら中から湯気やガスが立ち上っています。
特に激しくガスを噴出している場所では
「シュー、シュー!」と轟音が
聞こえます。
まさに地球の鼓動とも思えるような
日常ではまず聞くことのない
生々しく存在感のある音。
てくてく歩いていると
一気に雨雲がかかり、
やがて激しく降り始めてしまいました。
観光どころではないと
諦めて退散。
せっかくだから隅々までみたいのに。
雨の中しぶしぶ漕いでいると
やがて晴れ間も見えてきました。
2,000mを越える高山とあって
天気も気温も変わりやすい。
道をのんびり走っていると
湯気が上る場所がちらほら。
数十kmにもなる巨大なマグマが
地中にあるので、
いたるところで温泉が湧いているよう。
なかなかここまでの景色がお目にかかれない。
源泉に触れてみると
45℃ほどでしょうか、
足湯できるような湯加減ではなく
すごく熱いです。
川を眺めながら
お湯に浸かれたら気持ちいいのに。
公園内は野宿厳禁だそうでキャンプ場へ。
高額を覚悟したものの
サイクリスト価格が用意されており
$10とかなり安い。
売店まであり、観光地らしい
整い切ったキャンプ場でした。
イエローストーン観光2日目。
今日も平坦な道をたくさんの車に追い越されながら進みます。
漕ぎ始めてすぐに
間欠泉がありました。
前日よりも天気が良く
青々とした泉が綺麗に映えます。
飛び込みたくなるような色だけど
離れても熱気を感じるほど熱いです。
じっくり見れば見るほど
宝石のように鮮やかな
色と模様。
まさに自然が生み出す芸術。
風がつくりだす水面の波紋が
また美しい。
さらに進んだ場所にあるのは
「ブランド・プリスマティック・スプリング」。
公園内でも特に人気な見所です。
高台からの景色は圧巻。
泉の中心から外側に向かって
温度が変わるのですが、
それによって棲むバクテリアが異なり
青とオレンジのコントラストを
生んでいるのだとか。
舞い上がる湯気がまた荘厳さを増す。
そんな美しい景色の広がるイエローストーンですが、
とにかく人が多い。
平日でしたが、そんなの関係なく人気スポットの周りは大渋滞。
駐車場に入りきらない車が道路にはみ出しています。
こちらはトイレの大行列。
僕は自転車なので
道路脇で適当に済ませますが
これはちょっと嫌だな。
そういう僕自身も観光客の一人なので
何とも言えないですが。
最後にやってきたのが、イエローストーンのみならず
世界でも最も有名な間欠泉である
「オールド・フェイスフル」。
90分おきに30mもの高さまで豪快に熱水を噴出します。
時間なんて全く気にしてなかったのに、
僕が着いてほんの1分後に噴き出してくれました。
ただ、イエローストーン1番の目玉ともいえる
このオールドフェイスフル。
若干、興ざめしてしまったというのも本音でして…。
間欠泉の周りにはぐるりと
人、人、人。
千人は軽く超えるでしょうか。
敷設されたベンチには
収まらないほど溢れかえっています。
皆で中央の間欠泉を見るというわけ。
駐車場から歩いてくる間にも
ホテルやスーパーまであるんですよ。
ただただテーマパークで大きな噴水を見た
という風に感じてしまいました。
「間欠泉も水道水だったりして」
とか思っちゃうくらいです…。
人の多い観光地に来ると
自転車旅の魅力に気づかされます。
誰もいない何でもない景色の方が
いつまでも心に残っていたりして。
でも独特の火山活動の風景は圧巻でしたよ。
(誰に向けてのフォローなのか。)
北米大陸を東西に分断する
ロッキー山脈にあるイエローストーン。
こちらの分水嶺は
太平洋と大西洋それぞれに下っていく
水流の境目となっています。
まさに大陸の分け目。
前日に引き続いてキャンプ場へ。
公園内を自転車で移動する人などほとんどおらず
たくさんの車に追い抜かれながら進みました。
すると間欠泉を見学中に
「お前、さっき見たぞ。頑張れよ!」
「もうここまで来たのか!早いな」
など沢山声をかけてもらい、お菓子をもらったりします。
そんな、いつも以上にちやほやされた
2日間のイエローストーン観光でした。
2024.07.7
【79日目 4,833km】
アメリカに入国して、“ダットン”という小さな集落でひと休み。
ここから有名観光地である
「イエローストーン国立公園」を目指して進み始めます。
お昼ごろにはモンタナ州有数の都市
「グレイトフォールズ」に到着。
ミズーリ川の沿岸に
快適な自転車道が敷設されています。
車を気にすることなく
のんびりと走っていく。
しばらく進むと
都市名の由来にもなっている
大きな滝がありました。
今はダムになっていますが、
一部ゴツゴツとした岩場が
スケールの大きさを物語ります。
街を出る前に大型スーパー
「ウォルマート」にて
アメリカ本土で初のお買い物。
バナナ5本¥130、リンゴ1つ¥250。
ソフトドリンク1缶¥270。
もちろん高いけど予想ほどではない。
グレイトフォールズを出ると
また大平原を進みます。
気温は20℃を越え、
一気に暖かくなりました。
アラスカ出発以降
初めて終日半袖で走った日となります。
“ビッグ・スカイ”と称される
モンタナ大平原の大空。
綺麗なのは何も夕焼けだけでなく、
昼の時間でも立体感のある雲と
突き抜ける青空が最高に美しい
画を見せてくれます。
90kmほど走って
「ベルト」という町の公園にて
テントを張ります。
芝生がきれいなだけに
スプリンクラーに要注意。
あの悲劇を繰り返してはいけない…。
ダットン出発2日目。
ルークさん宅で頂いた“アップルバター”がすごく美味しい。
最近はパンではなく、もっぱらトルティーヤ。
かさばらないし、日持ちもするし、
どんな味付けもできる便利食材です。
さらにどこかで落としてしまっていた
コーヒーフィルターまで
頂いちゃいました。
楽しく旅をすすめるために
朝のコーヒーは欠かせません。
あぁ、やっと飲める。
この日は標高1,000mのスタート地から
2,400mの峠を越えるコース。
つまり1,400mも登るということ。
イエローストーンを目指すには最短だそうで
通らないわけにはいかない。
気合を入れて進み始める。
朝からクラクラするほどの暑さです。
たった4日前は息も白く
手袋してたのに。
今日は汗が止まらず
上半身裸で
せっせと坂を漕いでゆく。
標高が上がるにつれ
岩山の合間をぬうような
道へと変わっていきます。
幸い吹き下ろす向かい風が
ないのが嬉しい。
時速10kmでゆっくり前へ。
午後からは小川の傍らを上ります。
涼しげな水面に反して
気温は上がるばかり。
太陽に照らされて
ぬるくなった水で喉を潤す。
車が少ないのもありがたい。
そして夕方6時過ぎ、
やっとのことで標高2,400m、
峠の頂上へとたどり着けました。
疲れて“手前で野宿を”とも
思ったけれど、一日で上り切ると
達成感があります。
峠を下り15kmほど
進んだところでキャンプ場を発見。
有料と聞いていたけど
誰もおらず何もないので
しれっと泊まらせてもらうことに。
オンシーズンのはずなんだけども。
ダットン出発3日目。
前日にさんざん上った坂を今日は一気に下る。
下り坂から始まる1日なんてホント最高です。
アメリカに入国してから
天気はほとんど晴れ。
気まぐれな通り雨が降る以外は
どこまでも青空が広がっています。
やっと理想のサイクリングシーズンが
やってきたようだ。
40kmほど走った昼前に
“ホワイト・サルファー・スプリング”
という小さな集落に到着。
イメージ通りのアメリカの田舎
といった雰囲気です。
落ち着いた良い場所だ。
商店にてレジ横にピザが置いてあるので
つい買ってしまう。
1枚¥300で割とオッケーな値段。
美味しい誘惑がいっぱいのアメリカ。
カナダからアメリカに入って
肥満体型の人が明らかに増えた気がする。
まだお昼だけどキャンプ場にチェックイン。
前日が大きな峠越えだったので
半休日にします。
急な気温上昇に体も疲れている。
自転車って前に向かって頑張りすぎるので
時には「休むぞ!」って決心が必要。
近くにスーパーがあったので
夕食には、野宿中は食べない
ソーセージや野菜など。
ここしばらく食べることが
一番の幸せになっている。
ちょっとでも美味しいものを。
ダットン出発4日目。
今日も青空の下、平原の道を進んでいく。
中央アジアにも通じるような
どこまでも果てのない原っぱ。
日本の国土と同じほど広いモンタナ州。
でも、人口は全体で100万人ほど。
地元の広島市とか今住んでる湘南エリアと
同じくらいだから人口密度はかなり低い。
ランチはトルティーヤ。
カナダで1週間前に買った
アボカドがやっと柔らかく
なり始めました。
早く本場メキシコで食べたい。
美味しいんだろうなあ…。
夕方4時ごろ、「クライドパーク」という町を過ぎたあたりで
道端に“The Bike Stops Here(自転車はここで止まれ)”
という看板を発見。
トルーマン大統領の格言をもじっていると思われる文言に従い
立ち寄ってみることに。
奥に進むと平屋があり、ただ家主は不在のよう。
“でも止まれって言われてるしなぁ”ということで
20分ほど木陰で休んでいると
車に乗ったご夫婦が帰宅されました。
聞けば、自転車が大好きなご夫婦は
ここを通るサイクリストを
よく泊めてあげているそう。
裏庭にテントを張って良いということで
遠慮なくここで一泊させてもらいます。
スプリンクラーの心配も無し。
涼しくなった夕方に裏庭でのディナー。
BBQポークがとても美味しい。
食欲爆発で「ねぇ、これも食べていい?」
って聞くのが恥ずかしいけどやめられない。
太ってる人ってこんな感じなんだろうな。
永遠に食べられそう。
「自転車のことで困ってないかい?」
ということで緩んだうえに
錆び付いていたバッグのネジを
つけ直してもらいました。
アメリカの家庭はみな
お店が出来そうなほど工具が揃ってます。
実はこちらの“リーさん&ジーニーさん”、
昼間は遠くから来た友達と会っていたそう。
「このまま夜は映画行く?ディナーはどう?」
と誘ったところ、その友達に“疲れたからホテル戻る”と断られたのだとか。
「それで家に帰るとあなたがいたのよ」とのこと。
出会いって小さな奇跡の末に生まれてるんです。
断ってくれたお友達、心からありがとう。
2024.07.2
【75日目 4,520km】
ふらっと立ち寄っただけの旅人を歓迎してくれた
アイラさん宅にて過ごしたカナダ最後の夜。
朝にはコーヒーとパンまで用意してくれました。
朝からパラパラと止まない雨。
空を見上げても晴れる様子はなく
諦めて濡れながら
進むことを覚悟します。
どうやら青空のもとの
国境越えとはならないようだ。
大都市・カルガリーを出て4日。
太陽を見ることはなく
常に厚い雲が
空に立ち込めています。
それに加えて
日に日に寒さが増している。
この日、日中の気温はなんと6℃。
南に下っているというのに
日本の冬並みの寒さです。
休憩に立ち寄った集落でも
店が開いておらず。
あまりの寒さに外で食べることもできず。
午後から晴れる予報だったけれど
どうやら、そんな様子もなく。
6月の終わりに
手袋をして走ることになるとは
思ってもいません。
息も白いし、体が震える。
14時ごろに“ミルクリバー”
という集落に到着。
カナダ最後の食事はレストランの
ハンバーガー(¥2,000)でした。
最後の記念だからではなく、
寒くて外で自炊する元気がなかったんです。
さらに走ること1時間。
“クーツ”という集落の国境に
たどり着きました。
山火事という思わぬ
トラブルもあり2カ月の旅となった
カナダの道はここで終わり。
パスポートを見せると
簡単な質問をされます。
色んな国へ行ったけど
口座の預金額を聞かれたのは
アメリカ、カナダだけではなかろうか。
貧乏なんだから聞かないで…。
ということで、やってきました
31ヵ国目・アメリカ合衆国。
すでにアラスカ州を走っているので一度入国済みですが、
いよいよ本土の走行が始まります。
多くの人が観光に訪れる東西の両海岸ではなく、
中央部の田舎地域を中心に走ることになります。
果たしてどんな旅が待っているだろうか…。
国境を越えてやってきたのは
モンタナ州。
大平原グレートプレーンズが
広くを占める州で
「あそこ走ってもホント退屈だぞ」
と出会う人が口を揃えます。
国境を越えてもすぐに町はなく
変わらない平原がどこまでも
目の前に広がります。
これが何日も続くのだろうか…。
遠くの方にポツンと
何軒かの家が見える。
入国からわずか15kmほどで
「サンバースト」という
何とも暑そうな名前の
集落に到着。
キャンプ場ではなく
タダで野宿できるところを探したい。
町のはずれに静かな公園を発見。
人もいないようだし
芝生は綺麗だし
ここなら落ち着いて眠れそうと
安心してテントを張ることが出来ました。
あんなことが起こるとも知らずに…。
すやすやと気持ち良く眠っていた深夜2時。
突然「ザアー、ザア」と激しい水が
テントを打つ音で目を覚ましました。
“雨か…”と思い、再び眠ろうとするもやけに激しい。
一度止んだかと思うと、また降りはじめる。
というかこの雨には変なリズムがある。
そして、雨に強いはずのテントが下の方から濡れている。
ん? なんかおかしい…。
眠い目をこすり外に出ると
顔に「びしゃぁっ」としぶきが当たる。
どうやら水は地面から吹き上げられている。
スプリンクラーだ。
そして、テントが思いっきり狙い撃ちされているではないか。
「ヤバいヤバい」と眠たい頭で思考し、
なんとかタオルで噴射口を結んでふさぐ。
近くにある二つの噴射口をやっとふさいだ瞬間、
時間が来たようで全体のスプリンクラーが稼働終了。
ムカつく…。
朝目が覚めると、思った以上に
テントが降れていることが判明。
アメリカで過ごす最初の夜が大切な教訓を与えてくれました。
「公園野宿はスプリンクラーに気をつけろ」
荷物をまとめて走り始めると
青空が広がっていました。
ここ数日拝めていなかった
太陽に感動。
日光が降り注ぐ平原の景色、
まったく退屈ではありません。
ハイウェイを進んでいるけれど
交通量はさほど多くなく
路肩もかなり余裕がある。
昨日までとうって変わり
とても気持ち良く
晴天のサイクリングを楽しめます。
午後からはやはり厚い雲が
空を覆う。
カナダの針葉樹林もそうだったけど
こんな大平原で降られても
まったく逃げ場がございません。
お願い、やめて…。
わずか10分後の写真。
この10分間に、
まず無数の雹が体に降り注ぎ、
やがて大粒の雨に変わったかと
思うと、すぐに晴れ渡りました。
モンタナの天気めちゃくちゃです。
休憩に止まれるような場所すらなく
120kmを走破。
どうやらモンタナ州は
ただただ走ってばかりになりそう。
大平原の小さな村
「ダットン」に到着しました。
「ダットン」の集落でお世話になるのは、
Warmshowerのホスト“ルークさん”ご一家。
緑色の可愛らしいお家です。
到着翌日は休養日。
奥さんの“メーガンさん”お手製の
アップルバターが絶品で
パンを何枚も食べちゃいました。
レシピも教えてもらったので、
日本に帰ってつくるのが楽しみ。
この日は1年で最も日の長い夏至の日。
夜10時を過ぎてもまだ明るく
子ども達も外で遊びます。
焚き火であぶるマシュマロが美味しい。
一人キャンプの時は
やらないからこそ楽しい。
明るく楽しい家族の
夏休みを1日だけ
ご一緒させてもらいました。
こうして色んなご家庭の日常を
のぞき見させてもらえるのも
自転車旅の良いところ。
僕はもっと日の長いカナダから南下してきたので
夏至の特別感を感じないけども、
麦畑に沈む夕日がとても綺麗でした。
広大なモンタナの空は色んな表情を見せてくれる。
一番近い道を進みたいがために
退屈な景色が続くだろう、と覚悟したモンタナ州。
似たような景色が続くのは間違えないけれど、
決して退屈な道なんかではありません。