世界で最も美しい…
【333日目 18,398km】
大雨に降られながら逃げ込んだ“アンヘルさん”宅の小屋で
テントを張らせてもらった翌朝。
コヤイケの街を出発して4日目、
「アウストラル街道」を走り始めてからは
16日目になります。
用事があると、僕より少し早く
家を出発していくアンヘルさん。
トラックに荷台には
“山勇畜産”の文字。
でも実は左ハンドルだったりして、
どんな経路でここにやって来たんだろう。
出発準備中は
ちらっと青空も見えたけれど
走り始めるころには
やっぱり雲に覆われ
パラパラと小雨が降り出す。
今日も濡れるんだろうなぁ。
出発1時間のところで
やはり激しく降り始めました。
たまたま見つけた小屋に避難。
じっとしてると
濡れた体が凍えてくる。
はぁ、もうパタゴニア辛い…。
待てど暮らせど止まない雨に
「もうどうにでもなれ」と
ヤケクソで走行再開すると
意外にすっと
雨は弱まってくれました。
漕いでた方が体は暖まる。
途中の道端にあったのはコチラの墓地。
ひとつひとつがこの地域でよく見られる
ログハウスを模した可愛らしいカタチをしてます。
丘の上の墓地からは
美しい湖の景色が見える。
“温かい小屋の中で
綺麗な景色を眺めて欲しい”
という亡き人への思いやりが伝わる
素敵なお墓です。
午後からは少しづつ
晴れ間が広がりました。
青く輝く大きな湖面に、
雲を被った急峻な山々。
ようやく想像通りの
パタゴニアの風景を眺められた。
湖のほとりを進む道路は
起伏に富んでおり
まっすぐのんびり漕がせてくれません。
かなり急な上り坂も随所にあって
じわっと汗をかきながら
必死に押して進んでいく。
午後5時前に到着したのは
「プエルト・リオ・トランキーロ」。
湖畔の小さな町です。
“あるスポット”を訪ねて
多くの観光客がやってくるので
小さい町ながらも
たくさんの宿があります。
僕もそのスポットに行きたいので
ここでひと休みすることに。
トランキーロの町に到着した翌朝。
宿からほんの数百メートル歩くと
南米大陸で2番目に大きな湖
「ヘネラル・カレーラ湖」が目の前に臨めました。
“その場所”へは10人乗りの
小さなボートで向かいます。
「アウストラル街道」はじめての
観光らしい観光だけど
今日は朝から快晴。
気持ち良く現地まで向かえそうです。
「けっこう揺れるし、水も掛かるからね。
カメラは預かるからこのカバンに入れてくれ」
ボートの操縦士さんにそう言われて少しビビる。
穏やかな湖ののんびりクルージングだと思ってたのに。
やがて、モーター音を轟かせ
風が荒らす水面を切るようにボートが進み始めました。
距離にして3kmほどでしょうか、
15分ほどの予想以上に激しいクルージングを終えると
目の前には目的の場所が…。
それがこちらの「マーブル・カセドラル」、
岸壁を水が浸食してできた自然の洞窟です。
“大理石の大聖堂”の名の通り、
表面はゴツゴツとした無骨な岩肌ながらも
繊細で美しい模様をしています。
まるで大理石のよう…、
ではなくこの洞窟は実際の大理石なんです。
外から眺めるだけと思いきや
ボートはぐいぐい洞窟の中へ。
ターコイズブルーの鮮やかな水面を
反射する洞窟が一段と美しい。
そもそも湖の色が綺麗なのも
大理石の成分のおかげなのだとか。
かつて海だった一帯には貝やサンゴが堆積しており、
その海底が隆起して陸地に。
そこを氷河が削って湖が出来たうえで
貝やサンゴのカルシウムがマグマの熱と反応し、
大理石が形成されたそう。
そもそも基となる貝やサンゴを解析すると、
チリではなく遥か北にあるエクアドルあたりから
漂流してやってきたものである可能性も高いとか…。
つまり何万年と気の遠くなるほどの
長い年月をかけてできた
自然の芸術が今目の前にあるということ。
皮脂によってphが変化してしまうので
たとえ近づいても触れるのは厳禁。
まぁ、普通の人は触らない。
地形として大理石と水が
触れ合う位置関係にあるのは
地球上でこの場所だけだとされており
「世界で最も美しい洞窟」
という由縁もそこにあります。
パタゴニアならではの絶景ということ。
カヤックで周辺を漕ぐツアーもあります。
地元の人からも勧められてたけど
“どうせ雨だろな”と止めておきました。
でも僕が自転車を漕がない日は
天気が良いんです。
そういう風になってるんです。
こちらの大理石でできた大きな岩は
教会に見立てられており、
実際に結婚式も挙げられるそう。
こんな大自然で挙行できる式なんでロマンチックですね。
走るばかりだったうえに
雨に打たれてイライラしがちだった
アウストラル街道。
世界各地から多くの人が
やってくる理由の一つを
やっと目にすることが出来ました。
コヤイケ出発6日目。
“マーブル・カセドラル”の観光と町での休養により
ずぶ濡れによる疲れとストレスもリセットできました。
上りは多いけど、今日は天気も良いようだし
晴れやかな気分で漕ぎだします。
この水の色は
なかなかカメラに収めるのは
難しいだろうな。
すごく綺麗な
ターコイズブルーをしてるんです。
本当ですよ。
湖畔の道は常にアップダウン。
そして野生動物にも遭います。
キツネが横切ったと思えば
頭上には2m弱はあろうか
というコンドルが羽ばたいていきました。
本当ですよ。
気持ちの良い晴れではないけど
雨が降らないというだけで
快適さが格段に増します。
雨多いけど動物に襲われないパタゴニア、
天気良かったけど熊に恐れてたアラスカ、
どっちが良いだろうなぁ。
道路脇の草むらでランチ。
のんびりひと休みと思いきや
無数の蚊が襲撃してきました。
「あぁー!!」とイライラしながら
振り払う姿は、遠くから見たら
変な人だったと思います。
大きいものから小さなものまで
たくさんの湖があちこちにあります。
このターコイズブルーはパタゴニアの象徴として
ずっと記憶に残りそうだ。
絶えず水辺とセットなのが急な坂道。
上り坂も大変だけど
砂で滑るうえに
凹凸だらけの下りを行くのも
かなり神経を使います。
もう汗だく…。
夕方6時に「ベルトランド」
という村に到着。
キャンプ場もあるらしいけど
天気も悪くないし
休養日以外は
基本的に野宿をしたい。
まだ体力も余裕があったので
川に沿った道をもう少し進みます。
「世界一美しい林道」とも言われる
アウストラル街道。
美しいかはわからないけど
とにかくどこまでも森が続きます。
ベルトランドから10kmあまり走った所で
平らな場所を見つけキャンプ。
地図を見る限り静かな川辺かと思いきや
数百mの眼下に激流を望む一大パノラマでした。
景色良いけど、なんか落ち着かない…。
コヤイケ出発7日目。
テント撤収中は雨が降ってたけど
走り始めるとすぐに小雨になってきました。
「アウストラル街道」も
終盤を迎えつつあるけど、
ゴール前最後の休養地には
今日到着する予定。
またしてもずぶ濡れの荷物を
今すぐ乾かしたい。
数百mの峠から見下ろす渓谷。
街道の序盤に比べて
かなり起伏が激しくなっています。
最も高い標高でも600m程度だけど
とにかくアップダウンが多いから
決して楽な道のりではない。
さっきすれ違ったサイクリストに
「こっから町まではずっと下りだよ!」
と言われたけど
結構上るじゃないか…。
地球上には下り坂よりも
上り坂の方が多いんですって。
出発したキャンプ地からはわずか35kmなのに
5時間近くも掛かって「コクラン」の町に到着。
アウストラル街道のラストスパート前に
ここでひと休みしていきます。