進め、宝石の道
【268日目 14,337km】
南米大陸自転車旅における最大の難所ともいえる
「宝石の道」を走り始めて2日目。
オンダ湖湖畔のテントで目を覚ますと
空気はパリッと冷え込んでおり
湖面はうっすらと氷が張っていました。
後ほど調べると-3℃くらいだったろうと推測されます。
朝食は世界一ワクワクしない食材
オートミールでございます。
ココア粉末をまぜて甘めに頂くんだけど
オートミールってどうやっても美味しくない…。
初日が予想以上に
スムーズに進めたものだから
気持ち良く走り出したものの、
湖を離れるといよいよ
宝石の道の厳しさが
その牙をむき始めました。
それがこの深い砂。
総重量60kgに迫るであろう
自転車はズイズイと沈んでいき
押すことも大変。
ハンドルと後部の荷台を掴み
必死でなんとか前進する。
たまに砂が浅くなるエリアで
自転車を寝かせ休憩。
気温は20℃に届かないだろうけど
直射日光を避ける場所など
ほとんど無く、
ジリジリと照らされるのが辛い。
昼過ぎにはこの日一番の
深砂地帯へ。
複数の轍どれをえらんでも
砂からは逃げられない。
1km前進するのに
30分も掛かってしまいます。
そこを過ぎると、
今度は急斜面に石がゴツゴツと転がるガレ場。
踏んばる足も石と砂で滑ってしまい
なかなかまっすぐに進むことが出来ない。
押して進むことに疲れ
ゼエゼエと肩で息をするのが止まらない。
標高4,500mの高所では
深呼吸でも酸素をわずかにしか取り込めない。
ここでツアーのランドクルーザーに
何台も追い抜かれます。
手を振ってくれたり、
スマホで撮影されたり。
可能な限りは笑顔で手を振り返すけど
しんどい時は完全なる無視。
斜面を登り切るとまた深い砂の
平原が広がっています。
変わらない景色の中に
目印になるものは無く
「何とかあそこまで」と
モチベーションを保つことも難しい。
それでも何とか30km程度
進んだ夕方4時。
目標にしていた
砂漠の中のホテルに到着。
西欧を中心としたツアー客向けの
リゾートホテルです。
1万円以上もするホテルに
泊まることはできず、
敷地内にテントを張らせてもらう。
ここでの目的は水をもらうこと。
こうしたポイントが2日に1回は
あるので、乾き切ることなく進めます。
ツアーの運転者やガイドさんが
泊まる予備棟の陰で
寝させてもらうことに。
「お前さっき追い抜いたぞ」と
ものすごく感心されるのが
当たり前になりつつある。
前日に引き続きパスタ。
首都ラパスで日本人の
バックパッカーの方にもらった
お茶漬けの素がここで役に立つ。
感激するほど美味しくもないけど
何より茹でてかけるだけなのが楽。
「宝石の道」3日目。
荷物をまとめると今日も
広大な砂漠へ向けペダルを踏み込んでいきます。
赤茶色の砂地が
どこまでも広がる砂漠では、
実際以上に傾斜がキツく見える
傾向がある気がする。
いざ走ってみると意外に
緩やかなのが嬉しい。
出発2時間の所で
宝石の道はじめてのパンク。
“コルゲーション”と呼ばれる
車の通過により洗濯板状に
波打った轍のせいで、
後輪に衝撃が加わったもよう。
パンク修理作業中にカサコソと
音が鳴る方へ目をやると、
ウサギを発見。
観光客が捨てたであろう
乾燥しきったリンゴを食べてました。
こんな砂漠でたくましい、と感心。
ランチ代わりのクッキー。
たったこれだけの軽食でも
「あと1時間後にしよう」
「2枚じゃなくて1枚にしとこう」
と先をいろいろと考えながら、
砂漠の旅を進めていきます。
多くの場合、ランクルが残した轍は
複数に枝分かれしています。
「右の方が砂が浅そうだな…」と
一方を選んで進みだすと、
全然そんなことなくて後悔したりと
まるで“あみだくじ”の様。
前日ほど砂にはまって苦戦することなく
目的の場所に到着。
不思議な岩がゴロゴロ転がるアタカマ砂漠の名所です。
午後3時の時点で走行距離は30km。
これくらいが宝石の道での
1日当たりの平均走行距離になりそう。
似たような景色が続く砂漠における
ひとつの見所にもなっている「奇岩群」。
普通といえば普通の岩なんだけど
何もない砂漠にあると
それなりに面白い景色に見えます。
今日はここで1泊。
方々で写真を撮る観光客の
人たちが去った午後4時ごろ。
止まない風をかわす
大きな岩陰を選んで
テントを張ります。
周りに人もおらず静かな夜になりそう。
決して走り切ることが容易ではない「宝石の道」。
困難な道のりの対価の一つは間違いなく
毎夜のように頭上に広がる満点の星空。
地上4,500mから見れば
宇宙すらすぐそこに感じさせるほど
澄んだ空に無数の星が輝きます。
「宝石の道」4日目、
この日の朝は小さなトラブル。
お湯を沸かすためのガソリンバーナーの火が弱いため
該当部分を取り外しススを掃除してから
再度組み立てところ、どうにもガソリンが漏れてしまう。
原因は、一つの小さなリングを
組み入れ忘れていただけなのですが
それに気づくのに小一時間もロス。
説明書の読めないせっかちな性格が災いすることが
僕の人生ではよくあります。
12月31日の今日は
年内最終走行。
20km足らず走った先にある
湖畔の宿に泊まる予定なので
朝の出遅れも
たいした問題にはならなそう。
いつものごとく深砂に苦しんでいると
前方から路面を整備する
ロードローラーが出現!
待ってました、と
ドライバーにサムズアップをして
意気揚々と前進再開です。
ところがパッと見には
綺麗にならされているものの、
深い砂の表面が平らになっているだけで
いざ漕ぎだそうにも
タイヤは埋まるばかりで変化なし。
結局押して進むしかなさそうです。
目的のコロラダ湖まで
緩やかな下りだというのに
一向にスピードは上がりません。
「あぁ、クソー!」と
誰もいない砂漠で叫びながら
必死に自転車を前へと押し続ける。
結局わずか17kmの道のりに
5時間も掛かって
ようやく湖のほとりに到着。
ここからは公園に指定されているようで
約¥3,000の入場料を払って
ゲートを越えます。
ゲートを越えてすぐの所に
調べていた宿を発見。
決まって午後から強い風が吹き荒れる宝石の道では
何もない原っぱで吹きさらされるのを防ぐため、
午後4時頃には宿泊(野宿)場所の目途をつけているので
1日の行動時間もふだんより短いです。
何より重量級自転車を押してばかりなので
いつもより疲れるのも早い。
そして足元はいつも砂だらけ。
踏んばって汗をかいてるからか
靴下から犬のような臭いがする。
日本帰って犬をなでなですると
宝石の道を思い出しそうなくらい
印象的な犬の臭い。
¥1,000の宿では
8人部屋に1人きりで寝られることに。
ただ砂漠の真ん中とあって
Wi-Fiがないのは当然で
電気も夜の数時間しか
通じないとのこと。
大晦日のパーティーをしようにも
近くの商店の品揃えは期待外れで
手に入ったのは
無駄に大きな2Lのコーラと
チョコのウエハースだけ。
寂しい年越しになりそうです。
追加料金で夕食もつけられる
とのことだったのでお願いすると、
パスタが出てきました。
いつも食べてるんですけど…。
でも上に乗っかる
ミートソースが美味しかった。
そんな風になんとか
「宝石の道」の中盤に到達。
着実に溜まっていく疲労を感じながら
数日振りのベッドに体をうずめたのでした。