アンデス山脈、4,000mの世界
【219日目 12,336km】
リマから6日間かけてやってきたナスカ。
一応は目視確認できた地上絵に満足したことにして
砂漠の町で2日間の休養をとりました。
次に向かう目的地は
かの有名なマチュピチュ観光の
拠点となる街「クスコ」。
距離にして600kmあまりですが
これがただの道のりではなく
文字通り大きな“壁”が立ちはだかります。
それは南米大陸を縦に貫くアンデス山脈。
4,000mにも及ぶ山嶺を
自転車で越えなければなりません。
もちろん山脈なので、
一つ峠を越えて終わりではなく
登っては下り、を何度も繰り返します。
休養を終えたらいよいよ出発。
クスコまで2週間弱はかかるだろうか。
山間に現れる町で休憩をはさみつつ、
ゆっくりと確実に進んでいこう。
ナスカの町を南に出ると
あっという間に民家は無くなります。
遠くに見える山が
少し怖くすら感じる。
けれど最高の景色も持っているはず。
南米旅もここから本番という気持ちです。
道程は初日からかなり過酷で
1日目に2,000m、
2日目には1,500mと
いきなり標高を上げていきます。
アルメニアで経験した1日あたりの
獲得標高の最高記録、2千mに並ぶ。
出発から4時間経ったお昼ごろに
1,000mを登りました。
後ろを振り返るとこの景色。
荷物を積んだ自転車で上るのだから
ひと漕ぎひと漕ぎが重い。
時速7kmでゆっくり進みます。
交通量が少ないのが幸い。
通過するほとんどが大型トラックで、
九十九折りの道を猛スピードで
走れるはずもなく
エンジンをうならせつつも
徐行で僕を追い抜いていきます。
事前にルートチェックはしてますが
思わぬ場所で把握してなかった
フードトラックを発見。
昼食はパンをかじって済ませたけど
路上で人と会うことも無いので
喋りながら言い息抜きになる。
ペルーに来てよく飲むのが
こちらのインカコーラ。
コーラよりもオロナミンCに近い味です。
駄菓子屋の安いジュースみたいだけど
飲み慣れると美味しくなくはない。
まぁ、あくまで“美味しくなくはない”。
大型トラックの走行を考慮してか
傾斜がさほどキツくないのも
なんとか登れる理由です。
立ち漕ぎもせず座ったまま
なんとかペダルを回していく。
後ほど苦しむことになるけど。
午後3時頃、標高2,000m付近に到達。
後ろを振り返ると波のように隆起した山々と
それを縫うように敷設された道路が見える。
さらに進んで夕方5時。
数軒の家屋が並ぶ集落に到着。
十軒あるかないかだけど
ここでどんな生活が
営まれているのだろうか。
トラックが通過するだけの場所なのに。
一軒の食堂があったので
入ってみることに。
牛肉とじゃがいもの煮込み。
ペルーの人はお米も良く食べます。
日系文化の影響もあるだろうか、
食事はかなり美味しいです。
食堂の裏手にテントを張らせてもらう。
聞くと、各国のサイクリストが
立ち寄ってるみたいです。
他に食べる場所もほとんど無いので
皆同じ場所になるよね。
疲れ果てて7時過ぎには就寝。
ナスカ出発2日目。
テントを開けると標高2,500mのアンデスが目に飛び込む。
筋肉の張った足をほぐしたら今日も登りはじめます。
今日は標高4,000m付近まで登る予定。
ナスカで買っておいた高山病の予防薬を
走行前に飲んでおきます。
未体験ゾーンに突入する不安もあるけど
もちろんワクワクもある。
ちゃんと自力で登れるだろうか。
走り始めると食堂の犬が
追いかけてくれました。
昨日の夜、全力で
なでなでしすぎたのかもしれない。
そんな切ない目で見つめられると
出発しにくくなるじゃないの。
走り始めて1時間したところで
集落に到着。
数十km置きにいくつかの食堂も
あるようなので、
これらを頼りつつ
高所アンデスの旅を進めていく。
前日よりも若干ながら
傾斜が緩い気がする。
今日の獲得標高は1,500mだけど
昨日の疲労がある分、
よりしんどく感じる。
クスコに着くころにはボロボロだ。
前日ほど九十九折りの峠もなく
難所らしい所もないんだけど
平坦になる瞬間がほぼないので
体力的にも精神的にも
こたえます。
坂を上ると次の坂が待っている。
そして午後3時頃、
標高3,800mと富士山よりも高い場所に到達した時点で
いよいよ高山病の症状が出始めました。
ズキズキと頭が痛むのに加え、
立ちくらみのように瞬間的にフラッと力が抜ける。
同時に脚の疲労もかなり溜まっているので
自転車を降りて押しながらゆっくり進むことに。
夕方5時前、集落に到着し
休める場所は確保できそう。
もちろん食料は持ち運んでいますが
疲れていることもあって
なるべく栄養と食べ応えと温かさの
あるものが欲しい。
標高は遂に4,000mに到達。
日中は半袖で走っていましたが、
夕暮れが迫ると同時に
一気に気温が下がります。
気温を保持する空気が少ないからか、
ここまで極端な変化は体験したことが無い。
唯一のメニューは
魚のフライと付け合わせに
ジャガイモ。
何でもない料理なんだけど
これが揚げたてで
最高に美味しい。
ナスカ出発3日目。
そのまま食堂の横でテントを張らせてもらいました。
明け方は2~3°まで冷え込むけど、
日が出ると一気に15℃以上まで上昇します。
お世話になった食堂の店主「アナさん」。
週末には町へ下りて
民謡の歌い手をされています。
動画も見せてもらったけど
素晴らしかった。
伝統音楽の生演奏も見たいなあ。
走り始めてすぐの道。
若干のぼり気味なんだけど
それでもここまで平坦な道は
アンデス突入以降
初めてでなかろうか。
スイスイ進むのが気持ちいい。
そして10kmばかり走った所で
標高4,150mの峠に到達。
クスコまでの道のりにおいて
序盤の最高点となります。
まだ、ここより高い場所もあるけど
ここまで一気に登らなくていいはず。
黄金色の草が大地を覆う
標高4,000mの風景。
昨日からの頭痛がうっすら残るけど
呼吸については
さほど息苦しさを感じません。
ちょっとずつ順応しているのか。
峠の向こう側には
果てがうかがい知れないほど
長く続く下り坂が伸びていました。
ここから1,000m近く
標高を下げていきます。
これだけ登ってきたとは信じられない。
途中にいくつかの
集落を通過しながら
3,200m地点まで降下。
最高に気持ちいいんだけど、
どうせまた登ると思えば
嬉しいばかりではないのがアンデス。
山地とあって
牛や羊もたくさん飼われてます。
耳に飾りをつけるのが
アンデススタイル。
そういえば、もふもふした
あの動物はまだ見ていません。
小さな川を越えると
また登りが始まりました。
急峻な山を3日も漕いでると
もう頑張ろうとすら思わなくなる。
押してでもいいからとにかく前へ。
早く町で休みたい。
ちなみに南半球なので季節は
日本と逆転して、ただ今ペルーは春先。
といっても赤道に近いので
この辺りは冬でも雪が降らないそうです。
アラスカを思えば、
アンデスの寒さは何でもない。
午後からも黙々と
登りが基調の道を進み
夕方4時頃、
ついに眼下に広がる町を
確認できました。
あぁ、ベッドで寝られる。
滑り降りるように最後の坂を下り
あっという間に「プキオ」の町に到着しました。
ナスカを出発してアンデスを走ることまずは3日。
たったの150kmですが、濃い道のりでした。
クスコはまだまだ先だけど
休みを挟みつつゆっくり進んでいきます。