スピリチュアル・デイズ in セドナ
【114日目 6,571km】
体調を崩してフラッグスタッフにて1泊。
モニュメントバレーの観光やロブさんの事故もありつつ
7日間連続で走っていますが、
ここからわずか50kmほど南下した町で
ゆっくり休める予定です。
フラッグスタッフ中心部を離れると
一気に下り坂でした。
向かう先が観光地でもあるため
交通量もそれなり。
しっかり右によって安全に、安全に。
事故直後とあって、少しビビる。
下り坂を1時間進んだ先に
あっという間に目的地である
「セドナ」に到着。
あぁ、懐かしいこの町の雰囲気。
僕が旅に夢中になる
きっかけとなった場所の一つでもあります。
町に着いて向かったのはこちらの寺院。
ヨガや瞑想などのレッスンを
行う施設になっています。
ここに来たというのも、
ぜひ会っておきたかった人がいるから。
待つこと1時間ほど。
それがこちらの「ジェームス・ユークアラ」さん。
この人に会えるということでアラスカ出発以来、
セドナにやってくるのを楽しみにしていました。
彼とはどういう関係かというと、ちょうど10年前の夏。
バックパックを背負ってアメリカを旅していたのですが、
このセドナで野宿をしようと寝袋を抱えてキョロキョロしていると、
たまたま声をかけてくれたのがユークアラさん。
当時、観光客で賑わうセドナで野宿場は見つけられず
結局彼の家に4日間ほどお世話になったんです。
当然、今回の旅でも会わないわけにはいかず
セドナにやってくるのを楽しみにしていたというわけ。
ぱっと見にも、奇抜で派手な見た目のユークアラさん。
実はアメリカ原住民のハバスパイ族という部族でいらっしゃって、
その中でもメディシンマン(シャーマン)として
精神的、儀礼的指導を行う立場にある人なんです。
ハバスパイの伝統的儀式を継承すると同時に
そのライフスタイルや人生哲学が
他の文化圏の人々にとっても生き方のヒントになるということで、
日本やヨーロッパまで講演会やイベントに引っ張りだこ。
NHKの取材も受けられていましたよ。
現在、寺院の一画に住んでおり
僕もこちらで寝泊まりさせてもらうことに。
10年前は違う家だったので
こちらははじめて。
静かでとても居心地の良い
空間でございます。
ユークアラさんは伝統的で
厳粛な暮らしをしているかというと、
そんなことはなくまぁ普通です。
なんなら家いる時はずっとスマホ。
「リールとかずっと見ちゃうよね」
って感じです。
寺院の一画で
暮らしているということで、
ヨガ教室にも参加させてもらいます。
自転車旅中はしっかり
ストレッチをやってるけど
やっぱりヨガとなるとしんどい。
ただユークアラさん、
とてもお忙しい人でもあり
セドナを拠点に色々な場所へ
用事で出かけられるのですが、
滞在中は僕も付き人として
あちこちご一緒させてもらいました。
まず、再会の翌日にはセドナの北200kmにある
「グランドキャニオン」へ。
アメリカはもちろん、もはや地球を代表するといっても過言ではない
雄大な自然遺産です。
谷底を流れるコロラド川が
ゆっくりゆっくりと大地を削り
つくりだした巨大な渓谷。
その期間は20億年にもおよび
地球の歴史の3分の1にもなります。
まさに天文学数字。
“人生観が変わる”なんて大げさな表現で
形容すると胡散臭いですが、
このグランドキャニオンに関しては
決して言い過ぎではないかもしれない。
目の前に立つと必ず何かを感じる、
それぐらい力強い景色です。
と、ここにきたのも観光ではなく。
国立公園のビジターセンターにて
観光客に向けて放映する短編映画の
撮影が目的です。
ユークアラさんは谷底にある村の出身。
語り部として出演されるそう。
朝日を迎えると同時に祈りを捧げる様子。
ハバスパイの言葉で祝詞を唱え
セージを燃やす姿は、
仙人のようですらあります。
背後に広がる渓谷の風景が
さらに荘厳さを増す。
ネイティブアメリカンの信仰は
「おお、我らが神よ」といったような妄信的な宗教感ではなく、
太陽や山、木、動植物など身近な自然に感謝をしようといったもの。
(僕の解釈です…)
ユークアラさんがしばしば口にする教えも、
「過去や未来にとらわれず、今を生きよう」
「良いことも悪いことも意味があって起こる」
といったように、
あくまで日常を前向きに過ごしていくための
コツに留まっているように感じます。
シンプルだからこそ胸にストン、と落ちてしまう。
そんな“暮らしの教え”的な哲学が
日本の神道ととても似ていると思うのですが、
実際ユークアラさんのもとを訪れる日本の方も多いようです。
撮影が終わるとレストランにて朝食。
この格好をしているだけに
ユークアラさんはしょっちゅう
写真撮影をお願いされます。
普通の格好で横に座るのが
逆に恥ずかしい。
さらにグランドキャニオンから戻った翌日には
セドナから南へ、車で3時間のフェニックスへ。
こちらのホテルが今日の現場。
新しいプロジェクトを
立ち上げるためのミーティングです。
“ユークアラ”ブランドの健康グッズ
を売り出すのだとか。
「会議の様子をかっこよく撮ってくれ」
と付き人の仕事を受ける。
会議は2時間にも及び、
ウェブサイトのデザインについて
熱のこもった議論がなされます。
僕はその向こうのモニターの
パリオリンピック開会式を
じーっと見ていました。
さらにホテルから場所を移し
今度はスタジオへ。
ウェブサイト用のBGMと
写真撮影をするそうです。
ほんとマネージャーになったみたい。
仕事内容全く理解してないマネージャー。
録音するのはハバスパイの儀式で
歌われる歌なのですが、
これがすごく神聖な雰囲気で
そのまま作品にもできそうなほど。
低い声から高い声まで
楽器のように喉を鳴らしていました。
そのまま写真撮影へ。
写真を撮られること自体
大好きなユークアラさんですが、
魅せ方を知ってるという感じ。
カメラを前にして
流れるように色々なポーズを見せます。
そのままホテルに戻って
宿泊することに。
こんなふかふかベッドに寝られるなんて
いつもの自転車旅とギャップがありすぎて
不思議な感覚に陥ってしまう。
どうして自分はここにいるんだろうか…。
付き人期間中は
美味しいものを山ほど
ごちそうになってしまいました。
ここまでほとんどレストラン
入ってないから、もう
何を食べてもあごが落ちそう。
再びセドナに戻ると、
町の見どころである「カセドラル・ロック」に登ったりと
やっとのんびりした時間を過ごしました。
10年前に旅をして、
日本とはかけ離れた赤土の景色に
魅了されたセドナの町。
さらに忘れられない出会いもあって
旅をすることの素晴らしさを
教えてもらった場所でもあります。
“少数民族のメディシンマン”という
背景を抜きにしても、
そのおおらかで前向きな人柄で
他人を引き付けるユークアラさん。
こういう風になりたい、と思える
とても豊かな人格をお持ちです。
結局、予定をオーバーして一週間も滞在してしまいました。
セドナにいないことも多いようなので、
会うことが出来て本当に良かった。
ユークアラさん、年明けにも来日して
スピリチュアルトークをされる予定です。
乞うご期待。