砂漠の町・モアブへ
【98日目 6,001km】
ユタ州最初の街・ヴァーナルでひと休み。
こちらの写真は、お世話になっていたジャレドさんと
当初泊まらせてもらう予定だったカルヴィンさん。
出発の朝に郊外まで一緒に走り、お見送りをしてくれました。
南に下って次に目指すのは
「モアブ」という町。
ユタ州を代表する観光地の
拠点となる場所です。
ヴァーナルからは4日はかかる行程。
どんな景色が広がってるでしょう。
ジャレドさんから忠告も受けており
「ここからは一気に暑くなる。
ルート変更も考えておいた方がいい」
とのこと。
本格的な荒野が広がるようで
覚悟を決めて進んでいく。
70kmばかり走ったこの日。
“ダイナソー”という小さな町に着きました。
町役場には名の通り恐竜のモニュメント。
様々な種類の恐竜の化石が
この地域で発見されているそうです。
子供たちが喜びそうな町。
容赦のない暑さに対処するために
ここからは1日の走行距離を
短くしていきます。
日々の疲労をちょっとでも軽くして
ダウンしないように、ゆっくりでも
確実に前に進んでいきたい。
ヴァーナル出発2日目。
ここから「ダグラス・パス」という
2,500mの峠を目指していきます。
緩やかだけども
地味に高度をあげていく。
ユタ州に入ってから2,000m越えの
峠がかなり続いているので
上り坂には慣れているものの
暑さのせいでやっぱり辛い。
あたりに集落はないものの
こうした東屋が所々にあるので
日陰を求めて
頻繁に休憩をはさみます。
背の高い木がないので
走行中は影がまったくありません。
スタートのダイナソーから
700mほど高度を上げ
峠の手前の道端にて野宿。
標高が2,000m近いこともあり
日が暮れると一気に気温が下がります。
涼しいので夜はよく寝られる。
暑いと料理をする気も失せてしまう。
これまでストーブで
クスクスを調理してたけど、
適当に食材をトルティーヤで巻いて
お腹を満たす。
栄養だけはとっておかねば。
ヴァーナル出発3日目。
前日に登り切れなかった峠を上り始める。
頂上付近は傾斜が急なこともあり
ほとんどペダルを漕がず押していきます。
1時間ほど登ったところで
ダグラス・パスの頂上に到達しました。
2,500mの峠から見上げる
青空はとても爽快。
まだ朝9時ということもあり
涼しい風を受けてしばらく景色を眺める。
眼下にはこれから
下っていく道が蛇のように
うねりながら続いています。
反対に登っていくことを考えると
ゾッとするけど、実際同じだけ
登ってきたんだよな、と感慨に耽る。
限りなく広がる荒野を
突っ切る真っすぐな道を
スピードに乗って滑走していく。
昼前にもなると気温も上がり始め
じわっと汗をかき始めます。
余裕にあるうちにちょっとでも進みたい。
“ロマ”という小さな集落で休むと
大きな幹線道路に沿って走り始めます。
午後からはさらに気温が上がるので
休みをとりつつ、
疲れ切ってしまわないよう
慎重に。
この日を境に気温が確実に
一段階ほど上がったのを体感します。
乾燥しているとはいえ
日陰のない道を走り続ければ
焦がされた体からは徐々に
体力が無くなっていく…。
高架下に貴重な影を発見。
自転車を置いてひと休み。
太陽にさらされ熱くなってしまった
ペットボトルの水を喉に流し込む。
美味しくはないけど
とにかく水分を摂取しておかねば。
さらに1時間ほど漕ぐと休憩所を発見。
日陰に入ると極端に涼しくなる点は
湿気の多い日本との違いだろうか。
だらぁっと横になって休む。
すると暑さでダウンしてると思ったのか
ドライバーさんたちがちらほら集まりました。
聞けば周辺に熱波がやってきており
この時間40℃にも達しているのだとか。
さらに今後何日も酷暑が続くそう。
そりゃ、どうにも暑いわけだ。
沢山の方から
水やスポーツドリンクなどを頂く。
フラフラになりながらも
“シスコ”という集落に到着。
集落というより廃屋がいくつか
集まっただけで本当になにもない。
荒野のど真ん中に虚しさだけを
取り残した空間が広がっています。
そんな中、一つだけ商店がありました。
事前に調べた情報によると
敷地内にテントを張らせてくれる
とのことだったけれども、
到着が遅すぎて閉まっていました。
もう誰もいない…。
誰もいないので日陰を求めて
裏で寝させてもらうことに。
勝手に敷地に入るのも良くないけれど、
暑さにやられて考える余裕もなく。
おかげで無事に疲れた体を
休めることが出来ました。
ヴァーナル出発4日目。
目的の町・モアブまでは80km。
早く着いて休みたい。
幹線道路を離れ128号線という
コロラド川に沿った道に入ると、
大きな赤い岩が削れた
豪快な景色が広がっていました。
横切る車も少なく
ゆっくり眺めながら進んでいく。
これぞ思い描いていたアメリカ、
というような景色がどこまでも続く。
眺めるだけで喉乾くし
日差しが今日も暑いけれど、
この場所はうだるほどの暑さも含めての
風景だろうな。
モアブの町が近づいたあたりで
自転車道が現れます。
ただこの時すでに
40℃近いであろう午後2時。
自転車に乗って走っている人など
一人もいません。
そして、ついに到着しました「モアブ」。
小さいながらも観光客に溢れ
活気のある町なようです。
ヴァーナルから走ること4日。
クタクタになった体を
ここでしっかり癒しておきたい。
まずは商店で冷たいドリンクを飲み干し、
この町でもWarmshowerの
ホストの方にお世話になります。
今回はどんな方だろう、
と地図を見ながら郊外にある
お宅に向かったのですが…
たどり着いたお家の門がこれ。
“え?ここなの?
呪い人形みたいなの気になりすぎるんですけど。
てか、もう嫌なんですけど…。”
「あんたがリョウスケね。
まずどうしたいの、シャワー?洗濯?
忙しい時に来たわね。タイミング悪いわ」
60歳前後であろう女性の“テリアンさん”
からまともな挨拶もなく
まくしたてられました。
「あたし日焼け止めクリーム嫌いだから
すぐシャワーで洗い流して。
二階で寝てもらうけど足音立てないで。
荷物運ぶとき、砂持ち込まないで。
Wi-Fiあるけど
変なものダウンロードしないで。」
これまでのホストさんのパターンだと、
「全部君のものだと思って好きに使ってくれよ!」
というお家が多かったのですが、
こちらは禁止事項が多く、あたりも強め。
数泊とはいえ大丈夫だろうか…。
ただテリアンさん、とても器用な方でもあり
家の水道や電気配線などの施工を
ご自身でされたそう。
とても芸術家肌なようで
古着屋さんのような匂いのするお家も
雰囲気があって良い感じ。
話してみると、冗談も言うしよく笑うし
口は悪いけど、根は悪い人ではなさそう。
ジブリ映画に出てくる魔女みたいなものだと思って
数日お世話になります。(超失礼)
到着翌日、「パーティーあるから
あんたも行くのよ」と
お友達の家に連れてきてもらいました。
誕生日会とのことで
予想以上の人に溢れています。
年齢もホントばらばら。
アメリカ大陸を旅してるということで
興味を持ってくれる人がいたり、
日本に縁のある人もいたりで、
パーティ嫌いな僕も
すごく楽しい時間を
過ごすことが出来ました。
モアブ滞在中に観光にやってきたのは
町から10kmほど北にある
「アーチーズ国立公園」。
ユタ州きっての観光地であり
モアブはここに向かう人たちの
拠点となる場所というわけ。
砂漠の観光地とあってこの日も暑い。
朝7時には公園に入り、
散策を始めました。
多くの観光客同様
水をたっぷり持って
トレッキングルートを進みます。
最初にやってきたのが公園内1番の見どころともいえる
「デリケートアーチ」。
“アーチーズ”とは、名の通り
雨や風によってアーチ状に浸食された芸術的な岩が
2,000も点在する場所なんです。
ちなみにこのデリケートアーチは
州のナンバープレートにも描かれるほどで、
アーチーズ国立公園のみならずユタ州の象徴ともいえる風景です。
数億年前、あたりに
流れ込んだ海水によって
岩が塩分を多く含むらしく、
特有の地質がこの土地ならではの
光景を生み出しているのだとか。
中には歩いてくぐれるものも。
2つのアーチが重なった「ダブルアーチ」。
圧倒されるのは
魅力的な造形のみでなく、その大きさ。
こればかりは写真で伝えきれず
ふもとに立って見上げるしかありません。
とにかくデカい。
名前の通り、絶妙なバランスで
そびえるのは“バランスロック”。
中には浸食がすすみ
数年後には崩壊が予想される
岩もあるそう。
今しか見られない地球の芸術。
“悪魔の庭”、“エデンの園”など
仰々しい名を冠したものも多い
アーチーズ国立公園。
確かにどこか超常的なものを感じさせる
強烈な景色が広がる場所です。
暑さも忘れて見とれてしまう。
アーチーズの観光含め、
暑さからくる疲れをとるためにも
モアブの町にはたっぷり3日滞在。
どれだけ静かに歩いても
「足音うるさいわよ」と言ってくるテリアンさんに
すっかり愛しさすら感じ始めてしまいました。