カナダ最後の夜
【72日目 4,520km】
カルガリーではのんびりと4泊もお休み。
モノもそろって、体力も回復したら
南の国境を目指してまた走り始めます。
お世話になったマークさんに別れを告げて、走り出そうとすると
向かいのお家から可愛らしい兄弟が出てきてくれました。
実は、カナダ人のお父さんが日本企業にお勤めな上に
奥さんも日本の方ということで、滞在中に話は盛り上がり。
いよいよ出発というとき、
見送りの品におにぎりなどを持たせてくれたんです。
一人ぼっちで異国を旅する身として“誰かが関心を寄せてくれている”
という事実だけで、心から嬉しい気持ちになります。
出発から懸念していたものの
カルガリーの街を抜け出すのが一苦労。
都市の道路は複雑で、ただ真っすぐ
進めばいいというものではありません。
右に行きたければ、一度左に進め
という具合でとても分かりづらい。
やっと数十km進んでも
街が続くものだから
ゆっくり休む場所もなく。
分かったうえで早めに出発したけど
走りながら
徐々にイライラしてしまう。
頂いたおにぎりでランチ。
梅干しやおかかなど
こちらではまず出会えない
日本の味が美味しく、体に染み込む。
腹持ちの良さという点でも
おにぎりって最高の食べ物です。
天気はあいにくの曇天。
予報から分かってはいたものの
これから進む方向に
どんより暗い空が広がるのは
気が重い…。
すかっと晴れてくれ。
カルガリー中心部から50kmほど
離れても、まだ住宅が広がります。
これまで見ることのなかった二階の戸建てや
アパートが沢山あることからも
人口の多さがうかがい知れます。
日本の住宅地となんら変わらない。
夕方17時にようやくカルガリー脱出。
雨にも降られたことで
予定の100kmには到底及ばず。
なるべく大都市を避けたい
理由がここにあります。
とにかく都市部は走りにくい。
18時を過ぎて“オコトクス”の町に到着。
再び降り出した雨は止まず
考える間もなくキャンプ場に直行。
受付を済ませてびっくり、
テントを張るだけで¥4,000。
この時、どこか気持ちがプツリと切れました。
アラスカから続く針葉樹林とカナディアンロッキーの山々。
寒さに耐えてこれらの地域を走り切り、
カルガリーで一度リセットしたのちは
しばらく穏やかな気候のもと進めるものと想定してたんです。
ところがカルガリー出発初日から
寒さが戻り、降っては止んでを繰り返すにわか雨も相変わらず。
野宿場所を探す時間や体力もなく
やっとたどり着いたキャンプ場で高額を払わされる。
「嫌だ。もう円安下の北米旅が嫌だ。早くメキシコに抜けたい」
そんな思いが溢れ、ルートを簡略化し
1日も早くアメリカを走り去ることを決意。
カルガリー出発2日目。
朝から降り続ける雨の下、濡れながらも走り始めます。
ルートを変更したことで
大平原グレートプレーンズの
真っ只中を進むことになります。
景色が変わらず退屈になってしまうけど
一番早く南下できる道でもあります。
「いいから、早くメキシコへ」
太陽が顔を見せる様子はなく
どこまでもどんより。
そして寒い…。
日本出発してからずっと寒い。
先週までこの地域は20℃あったはずなのに
なんで…。
小さな集落の公園にてお昼休憩。
近くに泊まっていたキャンピングカーから
「寒いから、中にはいりなさいよ」と
お招きを受けました。
暖房も効いて暖かい車内。
ごちそうになるトルティーヤが旨い。
旅に大いに感心してくれた
“リックさん&グレナンさん”。
この先に進むルートの
アドバイスもくれました。
悪天候と寒さなどでイライラしていた
気持ちが少しほぐれていく。
午後からも気温は上がらず。
追い風なのはいいけれど、
時々強く吹けば身を切る寒さ。
カナディアンロッキーですら
もう少し暖かかったのに。
あぁ、太陽。
“クレアズホーム”という集落についた夕方。
「私たちも去年、自転車で
カナダを横断したのよ!」と
車から声を掛けてくれたのは
“ケヴィンさん&リサさん”。
「何かごちそうさせてちょうだい!」
「自転車にはカロリーよ!
カロリー高いもの選ぶのよ!」
とリサさん。
ハンバーガーをごちそうになりました。
お昼に続いて人の優しさに触れ
穏やかな気持ちで1日が終わる。
小さな集落に野宿できそうな場所が見つからず
昨日に続きキャンプ場へ。
少しは安いけど、
野宿ならタダで済ませられるのに。
大平原の野営地探し
簡単ではなさそうです。
カルガリー出発3日目。
引き続き麦の穂が揺れる平原を進んでいきます。
大陸名物“巨大水やり機”。
このあたりは麦やアルファルファ(牧草)
が主な作物だそう。
ジャガイモやとうもろこしには
少し寒すぎるようです。
少しというかだいぶ寒いですけど…。
お昼には“レスブリッジ”
という街に到着。
国境までは残り100kmほど。
スーパーもあるので
休憩がてら立ち寄って
補充をしておきます。
街の中に「日加友好庭園」を発見。
地図では事前に見てたのですが
“ニッカ・ユウコさん”という偉人を
記念したものかと思ってました。
日本とカナダの友好ってことね。
入場料かかったので今回は見送りです。
街を抜けると再び大平原。
海のように広がる麦畑に
浮かぶ島ように小さな集落が点在してます。
つまりあらゆる土地が管理されており
野宿がとても難しい。
でも今日はさすがにキャンプ場は厳しい。
「このままではどこにも泊まれない」と彷徨うように
20時までふらふら走り続けてしまいました。
疲れ果てたまますがるように
あるお家の前に立っていた男性に声を掛けると
「家の庭にテント張りなよ」
と、あっさり快く受け入れてくださいました。
「旅の話、聞かせてくれよ」と
焚火を起こしたアイラさん。
寒空のもと
暖かい火に手をかざしながら、
100km以上を走った疲れも忘れて
夜遅くまで話をしました。
季節外れの寒さが押し寄せ、
いつまでも暖かくならない旅路にイライラしながらも
進みはじめたカルガリーから国境へと向かう道。
大平原の景色は変わり映えせず単調だけど、
出国直前まで地元の人たちの暖かさに触れ
結局は充実した旅になってる、
としみじみ感じたカナダ最後の夜でした。