暴風ふたたび
【350日目 13,696km】
プロヴァンスの新緑を駆けた抜けたあとは、
再び海岸線へ戻り
西へと向かいます。
ホストのフローレンスさんとミツコさんが
見送りの際に告げてくれた
「今日と明日は、風が強いよ。明日は特に!
このあたりの風はホントに強いんだからね!!」
という言葉。
このときは「まあ、何とかなるでしょ」と
さほど気にも留めず
穏やかな景色の中走り始めました。
海のほうへ向かうとほとんど起伏はなく
快調に走って、お昼過ぎには60kmを走って
「アルル」の街へ。
プロヴァンス地方の中でも、
美しい街並みが人気で
多くの観光客が訪れるアルルの街。
昔ながらの街並みが残っています。
中心部には
大きな円形闘技場がありました。
かつてヨーロッパを広く治めた
ローマ帝国の遺産です。
かの有名な画家ヴァン・ゴッホが
愛したことでも有名なこのアルル。
名画「夜のテラス」の題材となった
カフェが現在でも残っていました。
こういうとこでフランスだなぁと
実感します。
フランスでは自炊ばかりだったので
記念にこのカフェに入店。
このあたりで有名な
水牛の煮込み料理を頂きました。
そりゃもちろん美味しいけど
値段は¥2,000、…高い。
街を数km離れると
ゴッホ作「アルルの跳ね橋」の
題材になった橋。
偉大な芸術家の感性をくすぐるのが
プロヴァンス地方の風景です。
アルルの街を離れると
そのまま南のほうへと下っていきます。
アルルから南に20kmほど下った
「カマルグ」と呼ばれる一帯は、
海水と淡水の混ざった大きな池が
いくつもある湿地帯となっており
自然公園として保護されています。
この湿地帯に集まるのは
たくさんの鳥たち。
春のこの時期には
フラミンゴがやって来ていました。
(遠くて見えづらいですが
白い点がフラミンゴです。)
一部区域が鳥たちの
保護観察地域となっており
有料で立ち入り出来るように
なっていました。
湿地の横に建てられた小屋から
スナイパーのように鳥たちを覗きます。
期待に胸を膨らませ
いよいよ覗いてみますが、
1羽たりともいませんでした。
鮮やかなピンクのフラミンゴはどこ?
時間帯が悪かったのか?
鳥たちが立ち寄りやすいように
人間の手によって整えられた静かな池。
僕が鳥なら思わず立ち寄りたくなるけど
残念ながら来るタイミングを
間違えたみたいです。
仕方ないけど、やっぱり残念…。
この日は自然公園の近くにあるキャンプ場へ。
設備の整った最新のキャンプ場だったらしく
1泊なんと¥2,000。
「もっと安くしてシルブプレ」と交渉するも
値段が変わるわけもなく、
他のキャンプ場を探そうかと悩んでいたところに
とある女性が声を掛けてくれました。
「私たちの借りてる敷地に一緒に泊まりなよ。
人数増えてみんなで割ったら安くなんじゃん」
娘さんと2人で写真のバスに乗って
カマルグに遊びに来ていた「マリエルさん」。
かつてのスクールバスをキャンピングカーに
改造してしまったファンキーなフランス人お母さんです。
車内はさすがに広々としていて
もちろんキッチンも付いています。
ベッドもあるし
こんなバスに乗って旅ができたら
本当にどこまでだって行けそう。
お言葉に甘えて
晩ご飯までご馳走になることに。
民家だけでなくキャンプ場でも
人のお世話になるとは…。
つくづく人の優しさに感謝です。
そして、テントで夜を明かした翌朝。
深夜未明からやけに強い風が吹いてたのですが
朝になっても吹き止んでいませんでした。
ただキャンプ場に2泊するのも嫌なので
覚悟を決めてペダルを漕ぎだします。
広大な湿地帯はどこまでも続いており、
大きな池に挟まれた1本道を
強風の中かろうじて前に進みました。
ただあまりにも強い風に
漕いでも漕いでもほとんど進まず
1時間近く走って3kmがやっと。
この日、あたり一帯に吹き荒れたのは
「ミストラル」と呼ばれる
この地域特有の風。
アルプス山脈からローヌ川流域に強く吹き降ろす風は
時に時速100kmにもおよび
1日中吹き止まないどころか数日続くこともあるそう。
「このままじゃ今日の予定距離は進めないな」と
思い始めた矢先、
さらに風は勢いを増して
ついにまったく前進できなくなりました。
これ以上は進めないと判断してUターンすることに。
今度は背中から吹く風に押されて
ペダルを全く漕いでないのに時速は30kmにも達するほど。
しかし、風の向きは一定でなく
時に横からも吹いてくるので走行は実に不安定。
ついには突風に煽られ
「ギャンッ!」と自転車ごとひっくり返されてしまいました。
「もうやだ、自転車なんか漕ぎたくない」
と乗っけてくれるトラックをあてもなく待ち続けることに。
しかし、待てど暮らせど自動車1台すら通らないので
とりあえず落ち着きを取り戻すためにも
一度キャンプ場に戻ることに。
あいかわらず吹き続ける強風のなか
お昼過ぎごろなんとかキャンプ場に戻ると、
そこには昨晩一緒に泊まったマリエルさん母娘がまだいました。
「ちょうどアンタの話してたことなの、
こんな風のなか自転車漕げるわけないわよ。
風が落ち着くとこまで送ってくわ。」
何とか前へ進む方法が見つかったと安堵しつつ
自転車を積んでしばらくバスに揺られました。
キャンプ場から
20kmほど進んだところで
降ろしてもらい、親子とはお別れ。
風も若干ながら弱まっており
再び西へと進み始めます。
道路横の池にはフラミンゴがのんびり。
湿地帯を抜けだすと主要道路に合流し
遅れを取り戻すかのように
ペダルをグルグルまわして
すっ飛ばして走ります。
休憩もとらず
ただただ前に進みました。
たどり着いたのはモンペリエの街に住む
Warm Showerのホスト
「アンソニーさん&ジェラルディンさん一家」のお宅。
事前に「この日に着くからね」と連絡していたので
なんとしても到着しておきたかったんです。
3人の子供がいるアンソニーさん一家は
家族みんなで世界各国を
自転車で旅してきた自転車家族。
今年の夏もヨーロッパを回るそうです。
英語もばっちりの子供たちは
元気で本当に良い子たち。
滞在中はフランスの家庭料理を
たっぷり堪能させてもらいました。
この日のメニューは「ラタトゥイユ」。
一緒に料理させてもらって
各国のご当地レシピ盗みまくってます。
これも旅の醍醐味。
滞在中ずっとお家のごはんを
ご馳走になってましたけど、
冷蔵庫にあるものでぱぱっと
簡単につくる料理が
どれも凄く美味しいんです。
恐るべしフランス料理。
天気が悪かったこともあって
結果的に3日間もお世話になりました。
しかもほぼ外には出ることなく
ずーっと家でまったり。
おかげでプロヴァンス地方からの
疲れもすっかり癒えました。
大陸を渡る自転車旅の楽しさと辛さを知る者同士
たっぷり旅の話を楽しませてもらいました。
アンソニーさん一家
素敵な時間をありがとう!
(長女はスペインに修学旅行中)
クロアチアで見舞われた強烈な季節風・ボラにも劣らない
フランスの「ミストラル」。
ここまでの暴風に再び襲われるとは予想もしていませんでした…。
過酷な自然に翻弄されながら、
出会う人の優しさに癒されながら、
まだまだ旅は続きます。